竹内まりやの代表曲のひとつ「September」は、1979年のリリース以来、今も多くの人々に愛され続けるシティポップの名曲です。その軽快なメロディとは裏腹に、歌詞には切なさや哀愁が織り込まれており、聴けば聴くほど心に残る深い味わいを持っています。本記事では、「September」の歌詞に込められた意味を丁寧に読み解きながら、登場人物の心情や表現技法、制作背景に迫っていきます。
1. 物語として読む「September」:登場人物と情景の流れ
「September」の歌詞は、ある女性の視点から語られる失恋の物語です。彼女は「辛子色のシャツ」という象徴的なアイテムで元恋人を思い出しつつ、秋という季節の中で別れを回想しています。
- 「あなたを想うと胸が痛む」という一節に代表されるように、感情は過去と現在を行き来します。
- 歌詞は物語的な構成を持ち、回想と現実の境界が曖昧になることで、感情の揺らぎを効果的に描いています。
- 明確な結論を持たず、別れの余韻だけが静かに残る構成が、リスナーに共感と想像の余地を与えます。
2. 季節と色彩表現──“秋”としての「あなた」・“辛子色”などの意味論
「September」は文字通り「9月」という季節をタイトルに持つ曲であり、秋という時期の空気感が全体に漂います。
- 「辛子色のシャツ」は秋の色味とリンクし、季節と感情の記憶を結びつける重要なモチーフです。
- 秋という季節は、物寂しさや変化を象徴し、恋の終わりや別れの時期としてよく用いられます。
- 季節が変わるように、人の心も変わる──という暗喩が歌詞全体に流れています。
3. 失恋と別れの声──“さよならの国”としての9月の象徴性
「September」における9月という時期は、単なる月名以上の意味を持っています。
- 歌詞中にある「さよならの国」というフレーズは、9月をまるで感情の終着駅のように捉えており、別れの象徴として機能しています。
- “恋人を失った後の喪失感”を、月の移ろいとともに表現することで、感情の普遍性と個別性を同時に描いています。
- このように、「September」は“さよなら”の象徴として9月を詩的に捉え、深いメッセージを込めています。
4. 歌詞表現技法を紐解く:メタファー、構造、視点の揺らぎ
この楽曲の歌詞は、細やかな比喩や視点の変化を含んでおり、文学的な鑑賞にも耐えうる深みがあります。
- 「風が運んださよなら」など、抽象的な表現によって別れの必然性や運命性を暗示。
- 詩のような構造で、サビ部分が特に印象的なフレーズを繰り返すことで、記憶に残る工夫がされています。
- 主人公の視点は一貫しているものの、「あなた」と「私」の距離感が徐々に広がっていくような描写が、別れの現実味を高めています。
5. 制作背景と松本隆/林哲司の意図:なぜ“September”が選ばれたか
「September」の作詞は松本隆、作曲は林哲司という黄金コンビによるものです。この二人の手によって、メロディと歌詞が見事に調和した作品が誕生しました。
- 松本隆は元々文学的素養のある作詞家で、自然や感情を繊細に描写するスタイルが特徴です。
- “September”という英語タイトルを採用することで、シティポップとしての洗練された印象と、グローバルな響きを持たせています。
- 林哲司の爽やかなメロディラインとのコントラストが、より歌詞の切なさを引き立てています。
Key Takeaway(まとめ)
「September」は、その明るく耳に残るメロディとは裏腹に、深い感情の揺れや失恋の痛みを繊細に描いた作品です。秋という季節の象徴性、色彩表現、そして詩的な構成を通して、リスナーの心に長く残る余韻をもたらします。竹内まりやの優しい歌声とともに、松本隆の巧みな作詞が光るこの曲は、日本語ポップスの中でも特に文学的価値の高い一曲と言えるでしょう。

 
  
 
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
       
      
