【Remember feat.YOUNG JUJU/Awich】歌詞(リリック)の意味を考察、解釈する。

10年分の思いを詰めたアルバム「8」

今やフィメールラッパーのトップランナーとなったAwich(エイウィッチ)がEP『Inner Research』でデビューしたのは2006年。
留学のためアメリカ・アトランタに渡ったAwichは翌2007年、ファーストアルバムである「Asian Wish Child」をリリースする。

正式な作品の発表はその後、2014年まで途絶える。
異国での結婚、出産、そして帰国。
その間にAwichは人生を左右するような壮絶な体験をする。
夫との死別、そして故郷・沖縄への想い。
一人娘を連れて沖縄へ帰国したAwichは配信で何曲か発表した後、思いの丈を詰め込んだセカンドアルバム「8」を2017年にリリースする。
彼女を形成するアイデンティティはこのアルバムによって作られたと言ってもいいだろう。
夫、娘、沖縄、日本、自分自身の在り方、女性の在り方。
このアルバムはファーストアルバムからセカンドアルバムまでの彼女自身の人生の凝縮である。

人生を変えるほど大きな出会い

師と仰ぐプロデューサー・Chaki Zuluとの出会いと共にAwichの音楽は大きく広がりを見せることとなる。
アルバムの客演にはChaki Zuluと共に自身も所属するヒップホップクルー・YENTOWNからkZmをはじめ、「サムライ・ジャズ」と評されるSoil & “Pimp” SessionsのTabu Zombie、ギャングスタ・ラップの実力者ANARCHY、Awichと同じく沖縄出身のRitto、沖縄民謡の伝説的存在である古謝美佐子、そして自身の娘であるYomi Jahとジャンルを問わない幅広いゲストを迎えている。

そしてAwichを大きく飛躍させたのが東京のヒップホップクルー、KANDYTOWNのYOUNG JUJU(現KEIJU)をフィーチャリングした「Remember」である。
オリエンタルなアジアを感じさせるトラックはヒップホップよりはダンスホールレゲエ寄りだろうか。
Awichの歌唱もゴリゴリのラップというよりは例えばRihannaやSHAKIRAといったラテンアメリカのディーヴァ達によるカリブ海周辺の匂いを感じさせるメロディアスな歌唱が強く、そこにはAwichが生まれ育った沖縄という島からの影響をたしかに感じ取ることができる。
インタビューによると、

「Remember」は元々ChakiさんとJUJUくんが一緒にやろうってなってたところに、私が飛び込んでいってできた曲ですね

との事で、ひょんな出会いから次々にガイダンス・導きが起こり、この「Remember」はAwichのその後に大きな影響を与えたという意味でも欠かすことの出来ない楽曲である。

誰に宛てたメッセージ?

リリックの内容については本人からは明らかにされていない。
印象的なサビのフレーズ、

I’ve always been by your side. Do you remember?

については死別した夫、あるいは幼い娘に宛てたメッセージのように取れるが真相はどうだろうか。

この楽曲をより深く理解するには全体で捉えるのではなく、ワンフレーズごとに込められた意味を考察するほうがより理解できると思う。
例えばAwichのヴァースで刻まれる、

楽しむことへのギルト ずっと抱えながら生きるの?

という一節である。
乱れた青春時代を過ごした後沖縄を飛び出し、アメリカ人のギャングと結婚し、またその夫を失い、子供を連れて沖縄に帰る。
ネガティブに考えれば後先を考えない人生で失敗し、ぬけぬけと地元に帰ってきた負け犬ともとれるのかもしれない。
しかしAwichは胸を張り、前を向いて走り出した。
夫への愛は本物だったと声高に叫び、また自分自身にも言い聞かせる。
きっと、Awichはどこかのタイミングでスイッチを切り替えたのだと思う。
社会や普遍的な人生、安定した生活よりも、自分をさらけ出し、エネルギーを放出しながら生きていくほうが良い。
文句を言うやつには戦いを挑み、打ち負かす。
何事にも全力で取り組み、楽しむ。
傍から見れば疲れる生き方なのかもしれない。
普通の人であればその燃費に耐えられず、夢を諦めて歩みを止めてしまうだろう。
しかしAwichは走り続けることを選んだ。
誰もが一度は理想に描いた

自由な自分を持ってる誰もが リミット外して思い出すコア

という初期衝動をキープしたまま再始動から現在に至るまで走り続けている。
その実績は言わずもがなで、彼女は日本を代表するフィメールラッパーの頂点へと君臨することに成功した。
そして、そのスピードは緩むどころか更に加速し、その目線は日本を飛び出して海外へと向けられている。
また、音楽だけではなくAwichは様々なプロジェクトに携わっている。
そこには海外へ留学した時の経験と成果が役に立っているのは想像に難くない。
結婚しても起業とマーケティングを学んでいた過去は無駄にはならず、彼女の人生において音楽と同等に興味のある分野なのだろう。

同調するようにYOUNG JUJUは言う。

昨日はもう戻らない

と過去を振り返らずに走ることを歌う。
YOUNG JUJUはその後、KEIJUと名を改めてソロアーティストとしてデビュー。
2022年12月にはChaki Zuluが手掛けた新たなトラックで「Remember」新バージョンがFIRST TAKEにて発表され、Awichとの5年前と変わらぬ絆を見せつけた。

Awichの楽曲でも特に盛り上がるパーティーチューン

インタビューによるとこの「Remember」はAwichにとって重要な楽曲というだけでなく、ライヴにおいても特に盛り上がる楽曲の一つである。

(「Remember」では大合唱が起こっていたりとめちゃめちゃ盛り上がってますね。自分的な手応えも感じてるんじゃないですか?という問いに対し)

めっちゃ感じてます。
うれしい限りっていうか、YENTOWNのメンバーにも受け入れてもらって感謝してるし。
Chakiさんにもあんなヒット曲を作ってくれてめっちゃ感謝してるし。
それを受け入れてくれてるオーディエンスのみんなにもめっちゃ感謝してるし。
めっちゃ感謝しかないですね

数多くあるメディアや媒体、またサブスクリプションなどの配信サービスではAwichの人気楽曲上位にもれなく位置づけられているRemember。
Awichの代名詞とも呼べる楽曲である。
特に夏の季節にぴったりのトロピカルでダンサブルなダンスチューンはビーチ、ドライブ、パーティなど楽しめる場所にぴったりの楽曲だ。

沖縄、アメリカ、日本。夫、娘、人生。
そのすべてを盛り込んだAwichの「Remember」は発表から数年が経った今でも彼女の代表的楽曲として多くの人々を楽しませている。
何も考えずにビートに身を任せるもよし、リリックの意味を一つ一つ噛み締めてこの楽曲に込められたエネルギーや感情をじっくりと読み取るのもよし、新世代のヒップホップを、Awichというアーティストを知る上で欠かせない楽曲である。