イアン・カーティスという稀代のカリスマを失った三人が取った道
セックス・ピストルズやクラッシュ、ダムド、バズコックスらが巻き起こしたイギリスでのパンクロック・ムーヴメントは、セックス・ピストルズの解散でひとまずの落ち着きを見せた。
セックス・ピストルズのボーカリストだったジョニー・ロットンは芸名を本名のジョン・ライドンに戻し、「パブリック・イメージ・リミテッド」を結成。
パンクロックに加え、ダブやレゲエ、ファンク、ディスコといった要素を加えた新しい音楽を始め、人々はそれを文字通りパンクの次に位置する「ポストパンク」と呼んだ。
同時期に活動を始めたのがセックス・ピストルズとバズコックスのライヴを見てバンドを結成したと言われる「ジョイ・ディヴィジョン」である。
ボーカル・ギターにイアン・カーティス、ギターとキーボードにバーナード・アルブレヒト(アルブレヒトは芸名であり、後に本名であるバーナード・サムナーに改名)、ベースにピーター・フック、ドラムにスティーブン・モリスという構成で結成されたジョイ・ディヴィジョンは地元マンチェスターのレーベル、ファクトリーに所属し、ファーストアルバム「アンノウン・プレジャーズ」で高い評価を得ると続くセカンドアルバム「クローサー」のレコーディングに入るが、イアン・カーティスの自殺により「クローサー」の発売後にバンド名を「ニュー・オーダー」と変えて再出発した。
ボーカルはバーナード・サムナーが引き継ぎ、キーボードにジリアン・ギルバートを追加したニューオーダーは1983年にイアン・カーティスの訃報を知らされた心情を歌ったと言われる「ブルー・マンデー」をリリースし大ヒット。
今日までテクノ・ニューウェーブのクラシックとして歴史に残る作品となった。
今回はこの「ブルーマンデー」を様々な目線から解説してみたい。
プログラミングを取り入れた最初期のロックバンド
「ブルー・マンデー」のシングルジャケットはフロッピーディスクを模したものとなっており、コンピュータを用いた楽曲であるというアピールがなされている。
(ちなみにこのジャケットは色々と仕掛けがしてあり、シングルが売れるほど赤字になるというコストの高い商品だった)
バスドラムの16分連打を聴いただけで「ブルー・マンデー」とわかるほど印象的なイントロで楽曲は幕を開ける。
全編においてシンセサイザーが導入され、ジョイ・ディヴィジョン時代から引き続いてバンドの代名詞とも呼べるピーター・フックのベースはよりメロディアスに歌う。
バーナード・サムナーの無機質な歌唱、ひんやりとした空気感のシンセサイザー、硬質で拙い音色のギター、対象的に熱を持った打ち込みによるリズムセクション、全てが「テクノ」の雛形として完璧に調和している。
構成はシンプルに聴こえたり、複雑に聴こえたりする。
不思議な構成だ。
それまでのポップ・ミュージックとは違った作り方で作られている感じがする。
楽曲自体は7分超の長い構成となっているが、目まぐるしく色を変える展開は長さを感じさせない。
ニュー・オーダーのファーストアルバム「ムーヴメント」はジョイ・ディヴィジョンの系譜を継承しつつ様々な要素を模索している作品という印象だが、この「ブルー・マンデー」及びセカンドアルバム「権力の美学」でニュー・オーダーはジョイ・ディヴィジョンの影を振り切り、完全に別のバンドとして生まれ変わったのではないだろうか。
イアン・カーティスに向けた内容の歌詞?
歌詞の内容は「イアン・カーティスに向けられたものなのではないか」という認識でも読める内容となっている。
これからという時に自殺してしまったイアンへの怒りや悲しみとも取れる内容だ。
しかし、公式に「これはイアンへ向けたもの」というニュー・オーダーの発言は見当たらなかった。
真相はいかに、というところではあるが、この以下の一節にはゾッとするものがある。
Tell me how does it feel
When your heart grows cold?
~日本語訳~
どんな感じなのか教えてくれよ
心臓が冷たくなっていくっていうのはさ
やはり死者へ手向けられた、という見方が妥当だろうか。
ひんやりとしたサウンドと無機質な歌唱、時に攻撃的な打ち込みドラムとこの歌詞という「ブルー・マンデー」だが、バーナード・サムナーのとらえどころのない感情も相まってゾッとさせられる楽曲でもある。
同時に研ぎ澄まされた美しさが同居する楽曲でもあり、その後のテクノ・ニューウェーブへの影響を見てもこの楽曲が表現した世界はポップ・ミュージック史に刻まれるべき内容であると思う。
ニュー・オーダー及び「ブルー・マンデー」に興味を持たれた方は是非マッドチェスターの狂騒を描いた映画「24アワー・パーティ・ピープル」もしくはイアン・カーティスの生涯を描いた映画「コントロール」を見て頂ければと思う。
1980年代、イングランドの一都市に過ぎないマンチェスターという場所で奇跡的な音楽が作られていた事、関わっていた人々の悲喜こもごもはテクノファン、UKロックファンならずともきっと楽しめる内容となっている。
映画を見た上でこの「ブルー・マンデー」を聴くとまた印象も違って聴こえるはずだ。
特に「24アワー・パーティ・ピープル」で描かれている、イアン逝去後にバーナード・サムナーが荒涼とした倉庫のようなスタジオで原曲とは違うギターバージョンの鬱屈とした「ブルー・マンデー」を歌うシーンは、言葉で言い表せない感情が美しく、悲しく描かれている。
ニュー・オーダーというバンドがどういうバンドなのか、きっと文字で説明するよりも強くあなたの心に響くだろう。