「第一期ちゃんみな」の締め括りと呼べる楽曲
今や日本を代表するフィメール・ラッパーとなったちゃんみな。
高校生で出場したラップバトル大会で一躍注目を浴び、作品をリリースするごとに変化と成長を見せてきた彼女だが、特にセカンドフルアルバムである「Never Grow Up」のリリース後は出自であるヒップホップのみならずEDMやR&B、ロック、J-POPなど多岐に渡るサウンドで一気に日本のミュージックシーンのトップへと躍り出た印象がある。
それまでのちゃんみなを「第一期」とするならばこのアルバム以降は「第二期」だろうか。
今回は「第一期」の締め括りとも呼べる「Never Grow Up」を歌詞から考察してみたい。
この作品をリリースしたのはちゃんみなが20歳の時。
年齢的にも子供から大人へと変わるタイミングでリリースされたこの作品には様々な仕掛けがしてあったと考察を経て改めて実感できた。
代名詞でもある攻撃性を抑え、イノセントな透明感を表現
何から話せばいい
長い長い our story
最後になりそうだね
ありがとう愛してた
何が愛か知らない
だから二人で愛を作ったんだ
これでいいのかなんて
私に聞かないでよね
Yeah we are always high
惹かれあってた
あなたがピーターで
私がウェンディを演じた
そばにいる事にも慣れ
いない事にも慣れてた
ねぇ君が好きって again and again
また離れて again and again
また戻るの again and again
ちゃんみなのデビュー曲「未成年」はわらべ唄の「いーけないんだの歌」(この歌の正式名称って何なんですかね)をフィーチャーし、攻撃的なトラックとパワフルかつ狂気を感じさせるちゃんみなのラップで「ちゃんみな」というラッパーのパブリックイメージを提示した代表作とも呼べる楽曲だが、この「Never Grow Up」はまるで多重人格のペルソナがくるっと入れ替わったように無垢で透き通った歌唱となっている。
数多くの色を使い分けるちゃんみなの声の中でも特筆してイノセントに振り切った歌唱と言えるだろう。
歌詞の内容はちゃんみなの実体験での恋愛を描いたもので、それまでに発表された「LADY」「OVER」「CHOCOLATE」で描かれた同じ相手との恋愛に決着をつける内容となっている。
「Never Grow Up」という単語は戯曲、小説、映画など様々なメディアミックス展開がなされている「ピーター・パン」に出てくる言葉で、「大人になれない」という意味合いを持つ。
自分をウェンディ、相手をピーター・パンに例え、お互い大人になれない恋愛を描いている。
The Chainsmokersとの共通点
狂わせた時計と壊れたコンパスが
私たちを大人にさせない
繰り返してる最後のキス あぁ
まだここにいる we never never grow up
これは主観だが、恋愛をしている期間、人は年を取らないのではないだろうか。
年を取るときはその恋愛が変化した時である。
失恋した時か、あるいは「結婚」という形に移行した時などに人は歳を重ねるのだと思う。
アメリカのEDMユニット、The Chainsmokersのヒット曲「Closer」楽曲のサビに「We ain’t ever getting older」(僕たちはまだ、あの頃のまま)という印象的なフレーズがある。
あの頃のまま、という事はまだ恋愛感情があり、逆を言えば歳を取る、大人になるということは一つの恋愛が終わることを意味している。
ちゃんみなとThe Chainsmokers、国籍も文化も違えど恋愛感情というところでは共通した表現を行っているのではないだろうか。
「Never Grow Up」というタイトルはネガティヴにもポジティヴにも取れる言葉で、「大人になんてなりたくない(=まだ好きでいたい)」というニュアンスや「不器用で傷つきやすい子供なんて厭だから成熟した大人になりたい」という自虐、「あたしに大人の恋愛なんて無理」というニヒルな諦め、「子供のまま無垢でいたい」という不安を表した願望も内包された様々な意味を持つ言葉となっている。
因みにメタ的な意味だと「これからも変わらず無邪気に音楽を作り続けます」というちゃんみなの意思表明であるようだ。
「あなた」と「君」
We are never never grow up
二人とも気付いてはいたけど
歪み始めていた love
君の目を見てわかっちゃった
ねえなんなんだよわかってくれよ
とか決してそんな荒い気持ちじゃない
君のさよならが重い言葉に
聞こえなくなったんだよ
こんな事言いたくない
けど君しか知らないからさ
行かないでって again and again
もう消えてって again and again
愛してるって again and again
一番のAメロでは「あなた」と呼ばれていた相手がこの二番のAメロでは「君」と変化している。
インタビューによると、恋愛中の相手を指す場合は「あなた」、別れた相手を指す場合は「君」となるようだ。
既に述べた通りこの相手は「LADY」「OVER」「CHOCOLATE」で歌われた相手と同じ相手で、「again and again」の歌詞の通りくっついたり別れたりを繰り返しているが、この「Never Grow Up」においては「別れた」状態で終りを迎えている。
歌詞の通りちゃんみなは未練タラタラな状態なのだが、それでも前を向いて別れの決断を無理やり下し、この相手と決別を図っている。
尚、インタビューによると「もしこれでまたヨリを戻すようなことがあれば『無理だった』というタイトルで歌を出します」との事だ。
「Never Grow Up」は自分だけでなく、相手への言葉でもある
長かったね愛してたよねもう終わりにしよう
(長かったね愛してたよねもう終わりにしよう)
We are never growing up
過ぎ去ってく日々たちを
忘れたわけじゃない
消したいわけじゃない
いつかはこんなにも悲しい夜が
来ることなんか最初からわかってた
いつもとは違うほんとのほんとの
さよならをしよう月が綺麗だね
Never grow up…
歌い出しから「ありがとう愛してた」で始まる通り、ちゃんみなはこの恋愛を完全に終わらせる気なのだが、それでもラストに「月が綺麗だね」と現在進行系のフレーズを差し込んでいる。
「月が綺麗だったね」であれば吹っ切れた感情となったはずだが、やはり決めきれない。
言葉の端には未練が滲み出てきている。
そういった未練も含めて「Never Grow Up」というタイトルにしたのは想像に難くないところである。
そして、「We are never growing up」と自分だけでなく相手も含めて歌っていることで、自分だけでなく相手も子供であり、また子供でいて欲しいという願望も表現されている。
インタビューでは触れられていなかったが、「吾輩は猫である」「坊っちゃん」等で知られる文豪・夏目漱石が「I love you」という英語を「月が綺麗ですね」と訳した、という逸話がある。(出典は不明であり、真偽の程は定かではないが)
ちゃんみなの「月が綺麗だね」という歌詞も、もしかしたら「I love you」の意味を込めて綴られたものなのかも知れない。
以上、主に歌詞の点から様々な考察を試みてみたが、まだ掘り出しきれていない仕掛けがこの歌には隠されているかも知れない。
あなた自身が導き出すあなただけの解釈、それはちゃんみなに限らずすべての音楽・芸術作品において大きな醍醐味の一つである。
ぜひこの「Never Grow Up」を聴き、「あなただけの解釈」を導き出してみて欲しい。
ちゃんみなの作品にはそれを試みるだけのギミックと仕掛けが盛り込まれているはずだ。