松任谷由実の代表曲
もはや伝説的な歌姫として、歴史に名を刻んでいる松任谷由実。
今作は24枚目のシングルであり、TBS系ドラマ『誰にも言えない』主題歌にも採用され、セールスもミリオンセラーを記録。
第12回JASRAC賞 銀賞も受賞しており、自身トップクラスのヒット曲となっている。
情熱的な歌詞とアップテンポなこの曲は、イントロからの盛り上がりがあることも手伝い、カラオケでも定番の地位を確立し、当時の邦楽シーンにおいて知らない者はいない程の知名度を誇っていた。
そんな松任谷由実の代表曲の歌詞解説を行っていく。
場面を想像させる圧倒的作詞力
骨まで溶けるような
テキーラみたいなキスをして
夜空もむせかえる
激しいダンスを踊りましょう
私遠い夢は待てなかった
「骨まで溶ける」というフレーズでその恋愛への没入度を表現し、「テキーラ」というワードで大人の恋愛の熱情をわかりやすく置き換えて表している。
曲調のエキゾチックさと相まって、「夜空もむせかえる」というラテン的な雰囲気を上手く聴く者に意識させている。
激しいダンスを踊るというのは、お互いに愛し合うこと、恋愛することを行動で置き換えている。
踊りましょう、という誘う形になっているので、主人公がアプローチを行っている側であることがわかる。
しかし、次のフレーズで遠い夢は待てなかった、という表記から、お互いに将来を約束した仲の相手を連想させ、その相手は、主人公を待たせている状態であることがわかる。
そこで、主人公は最終判断を迫っているか、自分の思いを伝えに来ている、というストーリーがこの短い節だけで想像できてしまう。
この圧倒的な作詞力は目を見張るものがある。
最後はもっと私を見て
燃えつくすように
さよならずっと忘れないわ
今夜の二人のこと
「最後」「さよなら」という言葉から、ここで主人公は既に心を決め、愛する相手を忘れない、せめて最後の夜として情熱的な夜を過ごそうと決めている。
「燃えつくす」という非常に直情的な恋愛表現が続く。
言葉選びの技術が光る
花火は舞い上がり
スコールみたいに降りそそぐ
きらきら思い出が
いつしか終って消えるまで
あなたの影私だけのものよ
花火は一瞬で大きく上がり、そして儚く消えていく。
主人公の爆発的な感情を上手く言葉にしている。
スコールも同様で、短い時間で大量の豪雨が起こること、それを花火との対比でチョイスし、いずれも夜空に関係するものであることから、「きらきら」という表現、さらに「いつしか終わって消える」というフレーズを使い、畳みかけるように言葉を紡いでいく。
そして最後は「影」。
もちろん、影も夜になると消える。
この恋は終わることを暗喩しているのである。
激しい愛情表現
最後はもっと抱いて 抱いて
息もできぬほど
さよならずっとアモーレ・アモーレ
この世であなたひとり
「抱いて 抱いて」という激しい愛情表現から始まり、「息もできぬほど」という全編を通して、様々な言葉で相手への情熱を表現し続けている。
一つの感情を表現するのに、これだけの種類のフレーズを生み出すこともさることながら、曲調に合わせた配置も含め、曲全体のレベルの高さが感じられる。
「アモーレ」はイタリア語で「愛」。
ラテン系のイタリア語をチョイスし、情熱性とアップテンポさをここでも意識している。
そして、「この世であなたひとり」。
ここでも今までと違う愛情表現のフレーズを使用している。
熱帯夜・ダンス・ラテンの統一感
踊るライトまわるダンスフロア
カリビアン・ナイトもっと私を見て
燃えつくすように
さよならずっと忘れないわ
今夜の二人のこと
ライトやダンスフロアというキーワードで、ダンスミュージックとしての今作とシンクロさせている。
カリビアン・ナイトというのはカリブ海の夜のこと。
熱帯夜を端的に表している。
最後はもっと抱いて抱いて
息もできぬほど
さよならずっとアモーレ・アモーレ
この世であなたひとり
カリビアン・ナイトああふけてゆくわ
もり上がるリズム
さよならずっと忘れないわ
今夜の二人のこと
カリビアン・ナイト・・・
最後の節でも一貫して情熱的な大人の恋愛をラテンとダンスミュージックらしいアップテンポな曲調に合わせて歌い上げている。
一つの感情を様々な形で表している凄さは前節でも述べたが、曲のパッケージとして全編のストーリーが想像しやすいという面も併せて評価したい。
情熱的な主人公とその背景。
曲と相まって更なる説得力を増すその構成に、ヒットしたのは必然であると思えるのである。
まさにヒット曲の王道
わかりやすいテーマ、そして圧倒的語彙力と歌詞センス。
ストーリーが想像しやすく、非常に記憶に残る印象的なイントロ。
そして歌っているのが、伝説的シンガー「松任谷由実」。
これだけ揃ってヒットしないわけがないと言えるほど、要素を積み上げた作品であり、クオリティの高さは折り紙付きである。
是非、一度、歌詞の意味もさることながら、何も考えずに曲の世界に入ってみることをお勧めしたい。