【KREVA】1番のおすすめアルバムはこれ!「新人クレバ」の批評と解説。

初期衝動とは

殊、音楽において「初期衝動」という言葉は重要な意味を持つ。

経験が少ない中でのシンプルな爆発力、小手先のテクニックではなく、むき出しのエネルギーを持ったデビューシングル、デビューアルバムというものが結果としてそのアーティストのキャリアにおいて最高傑作、といったケースは珍しくはない。

THE BLUE HEARTSのファーストアルバム「THE BLUE HEARTS」は「未来は僕等の手の中」で始まり、「リンダリンダ」で幕を閉じる。
ザ・ブルーハーツというバンドにとっても、甲本ヒロト、真島昌利というゴールデンコンビにとっても、その後のキャリアにおいてこのアルバムの持つエネルギーは最高峰に位置するだろう。

Oasisがファーストアルバム「Definitely Maybe」で解放したシンプルかつピュアなエネルギーはその後のOasisにとっても、ギャラガー兄弟にとっても支柱とも呼べるものだと思う。

The Strokesがファーストアルバム「Is This It」で提示した退廃的かつ埃っぽいギターサウンドは多くのフォロワーを生み出し、ガレージロック・リバイバルという大ムーヴメントのきっかけにもなった。

その他にも、初期の作品が最高傑作、もしくはそれに近い位置にあるアーティストは多い。

勿論、キャリアを重ねていく中で様々な要素を模索し、経験を積み上げていく中で「最高傑作」を生み出すアーティストもいるが、今回はやや特殊なパターンではあるものの、その「初期衝動」に注目し、あるアーティストの一枚のアルバムを紹介したいと思う。

KICK THE CAN CREWの頭脳、KREVAのソロデビューアルバム「新人クレバ」

それぞれ別々の活動をしていたKREVA、LITTLE、MCUの三人が「カンケリ」という楽曲で始めて共演し、その曲名をもとに名付けられたヒップホップグループ、KICK THE CAN CREW。

インディーズの頃からRHYMESTER率いるヒップホップコミュニティ「FUNKY GRAMMER UNIT」に所属し、キャッチーな楽曲と確かなスキルでそれまでアンダーグラウンドだったヒップホップをメジャーフィールドに押し上げたアーティストの一つであることは今更説明するまでもないだろう。

「マルシェ」や「sayonara sayonara」といったシングルヒットを連発し、2004年に活動を休止したKICK THE CAN CREW。

MCはそれぞれソロ活動を始めるが、その中でも一際大きなセールスを記録したのがKICK THE CAN CREWでトラックメイカーも兼任していたKREVAである。

まず2004年6月にインディーズでシングル「希望の炎」をリリースし、同年の「クレバの日」である9月8日にシングル「音色」でソロメジャーデビュー。

10月2日には自身が見出した女性ボーカル、SONOMIをフィーチャリングしたシングル「ひとりじゃないのよ feat. SONOMI」をリリースすると11月3日にはファーストアルバム「新人クレバ」をリリースした。

KICK THE CAN CREW結成前には同じくFUNKY GRAMMER UNITに所属するMC・CUEZEROとのユニット「BY PHAR THE DOPEST」で活動していたKREVAだが、完全にソロ名義の作品はこの時期が初めてである。

参加してきたユニットではトラックメイクを担当し、グループの頭脳とも呼べるKREVAが多くの制約から抜け出し、アルバム一曲目を飾るナンバー「DR.K」のリリックに「ラップ&トラック&DJ 全部楽勝」「擦れオレ BEATもオレ RAPもオレ」とある通り、SONOMIやCUEZERO、RHYMESTERのMummy-Dなどが参加したゲストパート以外については全てKREVAが担当している。

今までもラップはもちろん、トラックメイクを担当してきたKREVAが「自分が100%カッコイイと思うもの」だけで作り上げたそのアルバムはまさに「初期衝動」というエネルギーに満ちた作品となり、それまでの名声を証明、その後の活躍の土台ともなる重要な作品となった。

勿論、常に進化を続けるKREVAはそれ以降も今日まで多くの名作を生み出してきた。
経験を積み、ノウハウを積み、緻密な計算や巧みなテクニックで作り上げた名作も多い。

しかし、この「新人クレバ」が持つ初期衝動のエネルギーには「これがやりたかった」という喜びと「一人でやっていく」という不退転の覚悟が込められており、それだけに他の作品とは一線を画する類のテンションの高さが窺える。

もし、「KREVAのアルバムでおすすめは」という問いを投げられたなら、私は迷わずこの「新人クレバ」を推すだろう。

シンプルながらも説得力のあるリリックとサウンド

収録曲はシンプルに作られていると思う。
リリック、ライム、サビのメロディ、キャッチーなウワモノ、どれをとってもスッと耳に馴染み、そして耳に残るものばかりだ。

収録曲を一曲ずつ、リリックも取り上げながら解説していこう。

M-1 DR.K

極上プライベートロード

時に寂しいがオリジナリティ大事

DR.KというのはKREVAの別名であり、トラックの方向性としては同じく「Dr.」の名を使っているDr.DREが作り上げた「Gファンク」を感じさせるトラックとなっている。

上記に挙げた「ラップ&トラック&DJ 全部楽勝」「擦れオレ BEATもオレ RAPもオレ」というリリックもパンチラインだが、「極上プライベートロード」はソロ活動の気楽さを表現している。

「時に寂しい」とも挙げ、LITTLEやMCUがいないという事実についてはやはり一抹の寂しさを感じさせつつも、それでも「オリジナリティ大事」というのはやはりグループ活動の中で妥協してきた部分をソロ活動では出していく、という決意の現れだろう。

記念すべきファーストソロアルバムの一曲目を飾るに相応しい出発の歌となっている。

M-2 DAN DA DAN feat.CUEZERO

その手 叩き鳴らしな party people 上がりたがりや

その手 叩き鳴らしな 揺れる女 like赤い花びら

その手 叩き鳴らしな 寄ってこい みんな輪に交ざりな

KICK THE CAN CREWでは見られなかったトライバルな4つ打ちビートに乗せて鳴らされるダークなシンセサイザーが印象的なナンバー。
盟友CUEZEROのテンションの高い煽りと共に歌われるサビはダンスホール・レゲエの影響も感じさせる。
サウンドの構成としてはシンプルだが、ラップも含め一つ一つが研ぎ澄まされた高い完成度となっている。
特にCUEZEROの二回目のヴァースで鳴らされるワウギターのようなシンセサイザーのフレーズは是非耳を傾けて聴いていただきたい。

M-3 音色

愛してんぜ 音色

毎日 毎晩 お前とデート

あったかく包む まるで毛糸

次々に湧き出る イメージ映像

メジャーデビューシングルにもなったメロウなナンバー。
KICK THE CAN CREWより大人っぽさを感じさせるラブソングとなっている。
終始シンプルに気持ちのいい押韻が展開されており、KREVAのMCとしての底力を感じさせる。

M-4 あ・ら・らTake you home

ベイビー俺はボンボンじゃない

楽はしてないよ ラップはしてる

くだらない壁なら爆破してく そんな感じで掴んだMONEY MONEY

ダンスホール・レゲエやレゲトン、ラテンを感じさせるサウンドに軟派なラップを乗せたKREVA流のチャラいナンバー。
シンプルなビートに緻密なウワモノが重ねられており、元来トラックメイカーのKREVAのポテンシャルが発揮されている。

M-5 お祭りクレバ

えらやっちゃえらやっちゃえらいやんちゃ

口からまた変なものが出かかったがSTOP!

バカじゃねえんだ すんじゃねえぞ喧嘩なんか

とりあえず今日も混んでますな てんやわんや

ファッションチェックお断り 俺なんか見ててどうすんだ?男達

ちゃんとチェキれベイベチェキれベイべ 1.2.に33.4.

GO! GO! GIRLSがしきりにDANCING

アイツまじ ナイスBODY スウィートでクールまるでアイスキャンディー

いっちょ舐めてみたい つーか舐めさせたい つーか叫ばせたいぜ

阿波踊りの祭囃子をテーマにしたフリーキーなビートに乗せて酒と音楽、踊りに明け暮れるクラブの日常を描いた作品。
一聴するとシンプルなサウンドに聴こえるが、ギリギリ気づかないような通奏音が鳴っていたり、小技の効いたトラックとなっている。

M-6 ファンキーグラマラス feat.Mummy-D from RHYMESTER

オイ!スゲーきてんぞ!(マジでハンパない!)

男どもどこでも黙らす 君はファンキーグラマラス

FUNKY GRAMMER UNITのリーダー格、RHYMESTERのサムライマーことMummy-Dをゲストに迎えたドープなナンバー。
日本語ラップに多大な影響を与えたMummy-Dのライミングスキルはここでも存分に発揮され、ヘヴィなエレクトロを取り入れたトラックの上で躍動する必聴のラップとなっている。
KREVAのヴァースも負けじとスキルフルな押韻やフロウが展開され、二人の掛け合いは日本語ラップ史に残る名演となっている。

M-7 スタンド・バイ・ミー feat.KANA from THC!!

遠くのさざ波 星の輝き 君のささやき声とまばたき

もう止まらない胸の高まり 一分一秒を逃さない

でも終わらないように錯覚してたふたりにもちゃんと時間が来る

目が覚めたら君が居ない気付いたらもう逢いたい

ミクスチャーポップバンド、THC!!のボーカルKANAをゲストに迎えたラブソング。
KICK THE CAN CREWでは見られなかった大人の恋愛を描いており、「音色」と共にKREVAの新境地を見せたナンバーとなっている。

M-8 Skit/Dr.K診療所

えーっと、畠山さん。いいでしょうか?

えー、先日の検査の結果なんですが・・・。

はい

典型的なワーカーホリックですね。

えーご自身のアルバム制作期間中にシングル5枚、アルバム1枚、客演プロデュース5曲。

7曲です!

まぁなんでもいいんですけれども

自身のワーカーホリックぶりを自虐すると共に、次曲「WAR WAR ZONE feat.CUE ZERO」の紹介するスキットとなっている。
「畠山」はKREVAの本名である。
KREVAのソロ活動制作期間はKICK THE CAN CREWの活動期間と重複しており、2003年8月からの怒涛のリリースラッシュの最中に並行して行われた。
その事を自虐すると同時に次曲のサウンドはループ一発、という紹介で次曲に移る。

M-9 WAR WAR ZONE feat.CUEZERO

面倒くさがり 拍車かかって限度すらない

大事な問題先延ばしても何も無いのに

ギリギリ その日暮らし繰り返す一日

地味に地道に過ごして日に日に 分かり始めた意味

KREVAがワンループの元ネタに選んだのはアメリカのR&Bグループ、Moments & WhatnautsのGirlsという楽曲。
原曲のビートを強化し、ニューウェーブを感じさせるトラックとなっている。
アルバム収録の他の楽曲とは毛色の違うサウンドとなっており、KREVAのレンジの広さが発揮された一曲。

M-10 You are the NO.1<Hey DJ> feat.BONNIE PINK

君のためだけがみんなのため

みんなのためが君のため

この瞬間一度だけなら刻み込む 刻み込む

アコースティックギターを基調に音数の少ないビートが軽快なグルーヴを刻むナンバー。
ゲストにBONNIE PINKを迎えたこの曲が初めて観客の前で披露されたのはなんと発表から15年後の2019年のKREVA主催フェス「908FES」となった。
夏らしいサウンドがリスナーをリラックスへと誘う。

M-11 You know we rule feat.NG HEAD

俺ら来たから 今から聴かしたらぁ 体で聴きな 野郎ども

実力派レゲエDeejay、NG HEADをゲストに迎えた一曲。
ゲストに合わせたダンスホール・レゲエを感じさせるトラックではあるが、うねるようなベースと一筋縄ではいかない音色のドラムトラックとウワモノが異質な印象を感じさせる。

M-12 希望の炎

そうさ俺は最低の人間 ホントの事だけ書いてもいいぜ

書いたらみんながひっくり返る だから今 じっくり耐える

ビッグになれる なれないどっち 考えたこともないぜ本気

こんな姿でよければ聴いてよ 最低で最高の音楽バカ

わがままかって当然 君はわかってるよね

何を待ってるの ねぇ 火をともせ

ソロデビューシングルとなった曲。
音数の少ないビートに当時の最新技術とも呼べるAutotuneを使用したKREVAの声が印象的に響く。
ドラムトラックの他にはアコースティックギターと単音のシンセサイザーくらいしか使用されておらず、音数の少なさがソロ活動に向けてのメッセージ性の強いリリックを際立たせる。
KREVAの決意表明としてファンは必聴の一曲。

M-13 ひとりじゃないのよ <Album Version> feat.SONOMI

ひとりじゃないのよ 分かるでしょ?

ドラムとKREVAのラップのみという導入部の後に聴こえてくるウワモノのフレーズは初めて聴く人でも思わず微笑んでしまう程キャッチーで、ほんの少しの切なさを持ち合わせている。
文句なしにこのアルバムで一番の普遍性を持ったトラックだと私は思う。
SONOMIのボーカルはKREVAに寄り添うように優しく響き、今日に至るまでKREVAにとって重要な楽曲であると同時に、日本語ラップの歴史に刻まれるべき名曲。

M-14 Baby Dancer / Home Grown Remix

ハイハイ ハイハイ ハイハイ Check it Out Now

そんで毎回毎回サンキュ BABY DANCER

Hip-Hop, R&Bはもちろんレゲエのリディムも

4つ打ちのビートなんかも全然乗り切る娘

日本一のレゲエバンド、Home Grownによるトラックの上をKREVAらしいメロディを持ったフロウが跳ね回るアルバムラストナンバー。
カラッと歌われるレゲエサウンドがお祭りの締めくくりにピッタリの一曲となっている。

初期衝動であると同時に、その後のKREVAの土台となったアルバム

メロウな曲から踊らせる曲までKREVAの作品はバラエティに富んでいるが、このアルバムでもその振り幅の広さは遺憾なく発揮されている。
一つ一つがKREVAの初期衝動であり、その後の活動の土台となったのは推測に難くないだろう。
「音色」や「ひとりじゃないのよ」といったKREVAの代表曲とも言える楽曲が収められたこのアルバム、KREVAを知るにはまずこのアルバムを聴いてみてはいかがだろうか。