ポストさんピン世代のトップバッター、KREVAのパンチライン集
日本語ラップの始まりは誰だ、という問いが時々投げられる。
佐野元春が1984年に発表したアルバム「VISITORS」で披露したラップが最初だという説もあるし、吉幾三が同年に発表した「俺ら東京さ行ぐだ」が元祖だという人もいる。
また、いとうせいこうや高木完、藤原ヒロシといったサブカルチャー畑の活動も無視できないが、個人的にはファッション、アティテュード、日本語ならではの押韻といったところが完成形を見せ、それまでアンダーグラウンドなムーヴメント、悪く言えばキワモノに過ぎなかったラップとヒップホップが一つのクールなイメージとして花開いたのはやはり1996年の「さんピンCAMP」が一つの分岐点ではないかと思う。
BUDDHA BRAND、キングギドラ、RHYMESTER、そしてECDといった面々が今日につながる日本においてのヒップホップ・ラップというものの形を作り上げたのではないかと推測する。
それまでも1994年のEAST END×YURIによる「DA.YO.NE」やスチャダラパー・小沢健二による「今夜はブギー・バック」などお茶の間に届くようなラップ作品のヒット曲は出ていたものの、今日に至る日本語ラップに多く見られるセルフィッシュな姿勢やスタイリッシュなファッション性、反骨精神を孕んだアティテュードの面という意味でもやはり「さんピンCAMP」が与えた影響は大きいのではないだろうか。
中でもRHYMESTER率いるヒップホップコミュニティ・FUNKY GRAMMER UNITにはKICK THE CAN CREWやRIP SLYMEといったメジャーグラウンドでのメガセールスを記録したグループが所属しており、ヒップホップを日本に広め、根付かせた大きな原動力となったのではないかと思う。
本日はその中でもプロデューサー、トラックメイカーとしてもKICK THE CAN CREWの活動の中枢を担ったラッパー・KREVA(クレバ)のパンチラインをいくつか紹介しようと思う。
KICK THE CAN CREWの頭脳として、またラッパーとしてもヒップホップイベント「B-BOY PARK」にてMCバトル三連覇及び殿堂入りという実績を持つKREVA。
様々な面を持つ彼が1人のMCとしてマイクを持った時に放たれるパンチラインの数々、とくとご覧あれ。
固定概念を壊し、新しい価値観を提示し続けてきたオリジネイター
罪と罰の概念を吹き飛ばすほど
無駄な心配やルール次々どかすと
数々の困難も真っ平らまるでアスファルト
踏み固めてきたのさ頂点に立つ覚悟
それでも話は簡単にはいかない
腕組んだ敵それが何万人か知らないが
向き合う気武器はスキル
次ぎ合う日 ってかこの瞬間
たちまち改心させる
最新チャートでNo.1 in 銀河系
歌やメロディーをヒップホップに取り入れ、保守的ラッパーからディスられることも多いKREVAが2017年に発表した「神の領域」の一節。
多くの敵と対峙してきたが、結果としては多くのフォロワーを生み、日本の音楽シーンに名を刻み続けるKREVAの影響力は計り知れない。
憧れの歌姫との共演
数多のチャンスの中から
あなたとちゃんとここにおさまった
まるで絵葉書のように
重なり合う気持ちは合わせ鏡のよう
沈黙は不安の種
話しかけてよもっと
普段の間で
普段の声で
普段の目で
普段通りでも俺には全てがスペシャル
2009年にリリースされた古内東子との共作「スロウビート」の一節。
憧れの女性シンガー、古内東子とのコラボレーションという事で、いつもの俺様リリックは影を潜め、さながらラブレターのようにロマンチックな歌詞となっている。
ヒップホップ界隈だけでなく、異色のコラボレーションを行う事が多いKREVAだが、その中でも特にエモーショナルな一曲。
ディスにはきちんとアンサーを
人は人 俺は俺
やいのやいの言う前によこしなbeat beat
2006年に発表された「THE SHOW」の一節。
横浜のヒップホップユニット、OZROSAURUSが同年3月に発表した楽曲「Disrespect 4 U」でKREVAをディスった事に対するアンサーと言われている。
歌やメロディーを大胆に取り入れたKREVAだが、保守的なラッパーからは批判も多く、ZEEBRAがDragon AshのKjをディスったとされるキングギドラの「公開処刑」にてK DUB SHINEがKICK THE CAN CREWをディスったとされている。
この辺りのビーフ(ラッパー同士の争い)は傍から見ていると中々面白く、KICK THE CAN CREWが所属するFUNKY GRAMMER UNITのまとめ役、RHYMESTERとK DUB SHINEは交流があり、友達の友達だからといって許さないという姿勢も、嫌いな奴の友達だからといって縁を切ったりしない姿勢もあり、あくまで個人同士の争いが行われていた。(現在は話し合いが持たれ、争いは終焉)
売れっ子ラッパー・プロデューサーとなったKREVAだが、初心を忘れず、ラッパーとして勝負を挑まれればきちんとアンサーを返す姿勢を見せている。
これでもかという押韻で実力を誇示
個人競技 団体競技 関係なく
オレは器用貧乏になんないようにやってやる
駆け出す気持ちの行き場所 信じましょう
ビートに乗り 自問自答し
そして飛び込むビジョン 高い領域
また用意スタート
tofubeatsの「RUN REMIX」に参加した時の一節。
硬質な韻をこれでもかと踏み、ラッパー・KREVAの実力を見せつけたパンチラインとなっている。
KREVAの凄さは韻を踏むだけでなく、踏んだ上できちんと日本語として意味の通る歌詞に仕上げてくるところ、というのがよく分かる。
常に現在の自分が最高、そのために日々前へ進み続ける
2020年に発表されたZORNとの共作、「タンポポ」のリリックだが、希望に満ちたメッセージ性の強い硬派なラップが全編に渡って展開されている。
一節ではなく、全編を通して考察し、KREVAの最新地点をまとめてみたい。
(KREVA)
何回だって言う
I Have a 理想 何が悪りぃの?
ハワイかバリ島で貝殻拾う
リゾート気分 今以上の自分
ビートに刻む 緊張の一瞬
絶対ストップなんかさせないネバリ強さが
新たな世界動かす
そのまま1本の映画作ろう
言葉は自己啓発書
音に乗り君の待ってるところまで
いけるように染み込ませる心に
孤独な作業でも
それがちゃんと君に届くなら OK さ
マイナスなバイアスはいらない
ヤバイやつとヤバイやつ 橋渡し
わざわざ格下を見ないでしょ
俺ら歩き出そう 未来へと
(CHORUS)
理想を言おうよ 今だからこそ
現実の中で見れる夢 宝物
常にそう ステージ上 有言実行
胸に問う 夢 理想
ちゃんと口にしよう 何度も何度も
コンクリート破り また花咲かすタンポポ
やがては枯れ 綿毛
でも離れた場でまた芽出す
(ZORN)
美女のモデルとかリゾートホテルより
味噌と米ありゃ理想と呼べる
火を灯せ 希望の炎 心臓の奥
焚くのは Weed より金鳥の方
生活を紡ぐ 名作を生む
メンタルを写す 変化すんの 普通
贅沢もする 天下無双中
でっかくなったって洗濯もん吊るす
自問自答した矯正施設から
理想以上 今 4LDK
ただ一歩一歩来た 正面切って
調子乗らず ビートに乗せる人生
Hip Hop は鏡 元は Rats でも
逆さまになってここじゃ Star
失敗ばっかり 落ち込んでも
イッサイガッサイのみこんで
(CHORUS)
理想を言おうよ 今だからこそ
現実の中で見れる夢 宝物
常にそう ステージ上 有言実行
胸に問う 夢 理想
ちゃんと口にしよう 何度も何度も
コンクリート破り また花咲かすたんぽぽ
やがては枯れ 綿毛
でも離れた場でまた芽出す
(掛け合い)
冷めたコーヒー アイスコーヒー
同じ温度 同じじゃないストーリー
伝えなくちゃ伝わらない
伝わるまでくたばらない
スタバは無いし タワマンよりエメマン
そう全ては 誰が何言うか
なぜなら理由は
人のマネしなきゃ 唯一無二
言葉に染み出す人生の充実ぶり
純真無垢に走り出せ 俺の理想
あきらめることこそが 骨折り損 (Yo)
くたびれ儲けずに舞台で証明
恥ずかしげもねぇ 丸出しで OK
頂点目指すルートに無い正解
未来へ期待 ずっと抱いていたい
年少の独房 慶応を卒業
今交わるデコボコのオフロード
なんと言ってもラップパートの最後の掛け合いが見事。
成り立ちは天と地ほどに違った二人がこうして共演し、素晴らしい作品を生み出すことができるという希望に満ちている。
歩んできた道は違っても、同じ気持ちを持って進んできた二人だからこそ生まれた作品と言えるだろう。
この他にも沢山のスキルフルな名リリック、パンチラインを持つKREVA。
常に最新作が最高傑作、その言葉を地で行くKREVAは今後も目を離せない日本を代表するラッパーの1人である。