「いとしのエリー」は、サザンオールスターズの代表曲のひとつで、多くの人に愛されている名曲です。
このバラードは、『ふぞろいの林檎たち』のテーマソングとして使用されたり、さまざまなアーティストによってカバーされたりするなど、高い知名度を誇っています。
この記事では、「いとしのエリー」の歌詞の意味や制作背景、エリーとは誰なのかなどを詳しく解説します。
この情報を通じて、「いとしのエリー」をもっと深く理解し、楽しんでいただければ幸いです。
新しいスタイルを採用した作品
1979年3月25日にリリースされた、サザンオールスターズの3rdシングルは、バンドの歴史において特別な位置を占めています。
最初のシングル「勝手にシンドバッド」が大ヒットしたことから、以降のシングルは同様のアップテンポな曲にしようと計画されていました。
実際、2ndシングル「気分しだいで責めないで」も、「勝手にシンドバッド」と同様のアップテンポな曲としてリリースされました。
そして、3rdシングルも同じくアップテンポな曲、「思い過ごしも恋のうち」としてリリースされる予定でした。
しかし、メンバーたちの強い意向により、3rdシングルは急遽バラード曲の「いとしのエリー」に変更されました。
当時の音楽業界では、同じタイプの曲を3つ続けてリリースする「3枚サイクル」が主流でした。
そのため、前作と全く異なる作風の曲をリリースすることは、リスクが伴う決断であったことは間違いありません。
実際、「勝手にシンドバッド」が大ヒットしたことから、サザンオールスターズは”色物バンド”として見られることもありました。
この状況下で、「いとしのエリー」が予想を超えるヒットを記録しました。
この曲は16週にわたりトップ10入りし、累計で72万枚の売上を記録しました。
1992年に発表された「シュラバ★ラ★バンバ」と「涙のキッス」が初ミリオンを記録するまで、「いとしのエリー」は13年間にわたってサザンオールスターズの最大のヒット曲となりました。
このような状況で、予想外の作風の曲が成功することは稀でした。
しかし、桑田佳祐の音楽的な才能とそのギャップにより、多くの人々が魅了され、サザンオールスターズは「良い曲をつくるバンド」としての評価を確立しました。
「いとしのエリー」は、初めは発売当時に特定のタイアップがなかった曲でした。
しかし、この曲は発売から4年後の1983年に放送されたテレビドラマ『ふぞろいの林檎たち』の主題歌として選ばれることとなりました。
このドラマは視聴者から高い評価を受け、その後1997年まで4つのパートが制作され、全てのパートで「いとしのエリー」が主題歌として使用されました。
このことにより、「いとしのエリー」は幅広い年齢層に認知されるようになりました。
興味深いことに、『ふぞろいの林檎たち』では他にも「勝手にシンドバッド」「C調言葉に御用心」「チャコの海岸物語」「Bye Bye My Love (U are the one)」など、さまざまなサザンオールスターズの楽曲が挿入歌として使用されました。
このドラマは、日本の連続テレビドラマとしては初めて、1組のアーティストが劇伴全体を担当するという新しいスタイルを採用した作品としても知られています。
エリーが架空の人物
“エリーって誰?”
多くの人が、この疑問を抱くことでしょう。
実際のところ、エリーの正体についてはいくつかの説が存在します。
しかし、桑田特有の照れ隠しか、どの説も否定されており、結局ラジオでの一言で「響きが良かったから”エリー”にした」と述べられています(笑)。
一応、以下では今現在で伝えられている「エリーとは誰なのか」についての説を紹介します。
これは一つの説ではなく、実際に「いとしのエリー」が発売された当時、桑田佳祐自身が『ザ・ベストテン』に出演して語った内容です。
桑田佳祐は、著名なミュージシャンであるエリック・クラプトンに深い尊敬の念を抱いており、そのエリック・クラプトンの名前を短縮して「エリー」と呼んでいたことが由来です。
桑田佳祐の実姉の名前は”えり子”であり、このことから”エリー”という名前が生まれたという説も存在します。
この説によれば、”エリー”という名前は桑田の実姉への思い入れや尊敬の意を表現しているとされています。
ただし、前述の通り、桑田自身はどの説も否定しており、真相は不明です。
彼は単純に”エリー”という名前の響きが良いと感じて選んだ可能性もあるため、結局はエリーが架空の人物であると考えるのが妥当でしょう。
エリーへの深い想いが伝わってくる
「いとしのエリー」は最初、原由子による英詞のイントロから始まります。
その素晴らしいイントロの歌詞を引用してみましょう。
You should go back. You don’t have to sigh. Ain’t nobody to disturb you.
日本語に訳すと、「戻ってきてもいいんだよ。ため息をつかないで。誰もあなたを責めないよ」というイントロの歌詞が現れます。
この部分を単体で見ると、恋人が何らかの事情で去ってしまったことを示唆しています。
実際、これは桑田佳祐と原由子の実体験に基づいています。
1982年に桑田と原は結婚しましたが、一度は別れを経験しています(「いとしのエリー」制作以前の出来事です)。
しかし、その後、桑田は原に対する深い愛情を再認識し、「やはり彼女しかいない」と感じ、彼女に対する「ごめんなさい」という気持ちを込めて「いとしのエリー」を制作しました。
そのため、このイントロの歌詞は、まさに桑田の「ごめんなさい」という気持ちが忠実に表現されたものであり、別れた恋人に対して「私が悪かったから、戻ってきてくれ、あなたは何も悪くない」というメッセージが込められています。
泣かしたこともある 冷たくしてもなお よりそう気持ちがあればいいのさ
泣かせたり、冷たくしたことが原因で、恋人が去ってしまったかもしれませんね(笑)。
ただ、男性側には本当に深い思いがあるようです。
前述の通り、「いとしのエリー」は別れた恋人との復縁を試みる男性の物語を描いています。
その視点から考えると、女性側からすると「泣かされたり冷たくされたのに、今更なにを考えているのか?」という感情が芽生える可能性はあります(笑)。
ただし、男性側もちゃんと覚悟を持っているようです。
俺にしてみりゃ これで最後のlady
“最後のlady”、つまり、男性は彼女との結婚を真剣に考えているようです。
“最後のlady”と称されることは、エリーにとっては特別な意味を持つことでしょう。
個人的に、この曲ではサビの歌詞が非常に優れていると感じます。
映ってもっと baby すてきに in your sight
この歌詞について、桑田は「自分が見た目が普通以上ではないかもしれないけど、恋人の目には素敵に映りたい」という意味だと説明しています。
本当に素晴らしい歌詞ですね。
誘い涙の日が落ちる エリー my love so sweet
みぞれまじりの心なら エリー my love so sweet
泣かせ文句のその後じゃ エリー my love so sweet
“誘い涙の日が落ちる”、つまり悲しい日や涙が誘われる瞬間でも、エリーを愛している。
“みぞれまじりの心”、つまり心が不安定なときでもエリーを愛している。
“泣かせ文句のその後”、つまりどんなに厳しい言葉を交わしても、結局はエリーを愛している。
この歌詞は少し独特な表現かもしれませんが、エリーへの深い想いが伝わってくる、素晴らしい歌詞だと思います。
まとめ
「いとしのエリー」は、メンバーたちの強い意向で急遽3rdシングルとして発表されました。
メンバーが支持しただけあって、これは誰の心にも響く普遍的な名曲に仕上がっています。
もし3rdシングルも「勝手にシンドバッド」のようなアップテンポな曲になっていたら、サザンオールスターズが国民的な存在に成長することは難しかったのかもしれません。
ただ、桑田佳祐のような希有な才能は、どの道でかならず発揮されたことでしょう。
結果的には、私たちにとっては幸運なことに、「いとしのエリー」はそのタイミングで世に出たのです。
最初のヒット曲「勝手にシンドバッド」で一気に注目を浴び、その注目が途切れる前に、この傑作バラードが登場しました。
実際、「勝手にシンドバッド」が驚きと興奮を巻き起こしたように、「いとしのエリー」も同様に驚きをもたらしたのかもしれません。
“あのカラフルなバンドがこんな素晴らしいバラードを歌うなんて!”という感動が広がったのかもしれません。