【花火/ちゃんみな】歌詞の意味を考察、解釈する。

一瞬の煌めきを花火に喩えた楽曲

「花火」をモチーフにした楽曲はこれまでに多くのアーティストが手がけてきた。

aikoやいきものがかり、近年では三代目J SOUL BROTHERSの「花火」やDAOKOと米津玄師による「打ち上げ花火」といった楽曲に共通して歌われるのは「一瞬の煌めき」ではないだろうか。

多くは恋愛や青春といった一過性の事柄を、一瞬で咲いて散る花火に喩えて歌われることが多い。

また、フジファブリックの「若者のすべて」で描かれているような、ひと夏の失恋や悔恨がテーマになることも多く、「桜」や「雪」と同様、日本人にとって比較的モチーフにされやすいワードであると言えるだろう。

ちゃんみなが2021年に発表したサードアルバム「ハレンチ」に収録されている「花火」は一瞬で燃え上がり、そして散った恋愛やデビューして何作か、何年かを経た中での自身の変化、そしてブレイクを経て今後の歌手活動に対する漠然としたイメージ、仄かな不安といった事柄が歌われている。
ある意味では前作のセカンドアルバム「Never grow up」と共通したテーマと言えるだろう。

また、自身のブレイクと今後に対するイメージといったところでは同じく同作収録の「美人」や「太陽」と共通するテーマとも言える。

今回はこの「花火」の歌詞を考察してみたい。

「若さ」を歌うという事は、「若さ」が失われつつあるという事

Looking around I’m just looking around

このままだと終わるわ

扱えないの私じゃ

Time is over 知らされても

醜い日も飾ってるの

時のせいになる その前に

Fire 君が灯すの

Fire fire

私、花火 若い夜に

つけられた火 君を照らす yeah

私、花火 長くはない

若い夜を 思い出してくれるかしら

ちゃんみなへのインタビューではこの「花火」のテーマは「若さ」だと言う。

そして、「若さ」を歌うことができるのは「若さ」を客観的に見た瞬間、つまり「若さ」からある程度の距離を置いたと実感した瞬間からではないだろうか。

インタビューでは「メイクしてる時にシミを見つけた」といった事が語られているが、この楽曲が持つテーマは「若さと老い」だけではない。
ヒット曲を出し、ポップアイコンとしてブレイクスルーを果たしたちゃんみなが抱える一つの思い—飽きられ、忘れられてゆく事への不安を咲いて散る花火に喩えて歌っているのではないだろうか。

「Looking around I’m just looking around このままだと終わるわ」と言う一節にその想いが込められているのではないかと推察する。
恋愛を終わらせない方法、またはアーティストとして生き延びる方法を文字通り「Looking around=探している」のではないだろうか。

そして、「若い夜につけられた火 君を照らす」と言うのはちゃんみなの楽曲に感銘を受けたファンの心理を現しているのと同時に、「私、花火 長くはない 若い夜を 思い出してくれるかしら」と言う一節には「いつかは忘れられてしまうのかもしれないけど、時々は思い出して欲しい」という願いが込められているのではないかと推察する。

主語を入れ替えたことによる視点の変化

They say love is game

I’m so tired baby

だから少しここにいて

火が消える事は知ってる

君が裏切る事も期待してる

古くなっても君は

愛しく思うだろうか

あの日のように baby

Fire 2人で灯した

Fire fire

君は花火 すごく綺麗

すぎて傍にいれるかしら yeah

君は花火 ずっと傍に

時が経てど 私を気にかけて

一番では主に「私」を花火に喩えて歌っていたが、二番ではその対象が「君」に変化している。

恋愛における情熱を花火に喩え、「火が消える事は知ってる 君が裏切る事も期待してる」と歌い、この恋が一瞬の煌めきで終わってしまうことを予感させるヴァースとなっている。

また、一番に引き続きファンに対しても「今は派手に咲いて燃えているけどいつかはその火も消え、私の事など忘れてしまうだろう」と言うアーティスト・ちゃんみなの内面を曝け出したフレーズとなっているのではないだろうか。
「古くなっても君は 愛しく思うだろうか」と言う一節は特にその想いが強く現れたフレーズではないだろうか。

それでも恋愛の相手やファンの事を「すごく綺麗」と表現するあたり、ちゃんみなが持つある種の劣等感や弱さが—その等身大の姿勢がちゃんみなの魅力の一つでもあるのだが—強く現れたリリックとなっている。

恋が終わっても、忘れ去られても、そこにいたという事実は変わらない

You make me fire you make me fire

君の傍で笑ってた

私を私を いつまでも忘れないで

You make me fire you make me fire

君に恋した少女は

あの子はあの子は

いつまでもここにいる

「You make me fire」はスラングだが、おおよその意味としては「あなたが私に火をつけた」といったところだろうか。
そして、その火はいつか消える。
ちゃんみなはその火が消えた後の事を歌っている。
しかし、恋をしていたという事実、恋をしていた時の煌めきと情熱は消えるものではない。
私は例え火が消えてしまったとしても、いつまでも変わらないでここにいるとこのCメロで歌われている。
注目すべきは「君に恋した少女は あの子はあの子は いつまでもここにいる」と言うフレーズ。
このフレーズはこの歌の最後にも出てくるのだが、ほんの少しだけ言葉に変化が加えられている。
ここでは「あの子」となっている視点がどう変わるのか、続いて最後のパートを考察してみたい。

いつの日か 私が散って砂に乾いても

愛してください 君の傍でまた咲く

私、花火 若い夜に

つけられた火 君を照らす yeah

私、花火 長くはない

若い夜を 思い出してくれるかしら

You make me fire you make me fire

君の傍で笑ってた

私を私を いつまでも忘れないで

You make me fire you make me fire

君が恋した少女は

私は私は

いつまでもここにいる

先ほどのCメロで歌われていた「君に恋した少女は あの子はあの子は いつまでもここにいる」と言うフレーズがこの歌の最後には「君が恋した少女は 私は私は いつまでもここにいる」と変化している。
より強くちゃんみなの主観が表現された手法と言えるだろう。
そして勿論、この歌を聴いているリスナーの気持ちを代弁したフレーズにもなっている。
「少女」と言うのは若さを象徴する単語だが、同時に「傷ついていない、無垢な状態」を現していると言える。
花火のように咲いて散った後、おそらく「少女」は成長し、その幼さと情熱を心に残したまま他の何かに形を変えるのだろう。

この楽曲と共通したテーマを持ち、前作のアルバム「Never grow up」のリードトラックとして、そしてアルバム「ハレンチ」においてM-15のこの花火に続いて収録され「ハレンチ」を締めくくるM-16「Never grow up」(「ハレンチ」においてはアコースティックバージョン)は大人になりたくない、大人になれないという気持ちを表現した楽曲だが、この「花火」にもその気持ちの片鱗が表現されている。
ちゃんみなの楽曲は私的な心情を歌ったものが多く、また相互に関わりを持つ世界観が複数の楽曲で表現されるケースがあり、一つの楽曲だけでなくいくつかの楽曲を聴いてみて見えるテーマと言うのが存在するのだと思う。

聴けば聴くほど広がりを見せるちゃんみなの世界に、この「花火」は欠かすことのできない重要なピースである。