【不可幸力/Vaundy】歌詞の意味を考察、解釈する。

新進気鋭のマルチアーティスト、Vaundy(バウンディ)のセカンドシングルである『不可幸力』は、社会の陰鬱な側面と幸福感の両側面が同居する曲です。
独特な世界観を持つ彼の表現は、やみつきになる歌詞の意味を含んでいます。
今回、その歌詞の解釈を詳しく探ってみましょう。

自分が何を追求すべきか

2019年に1stシングル『東京フラッシュ』で突如として注目を集めたシンガーソングライター、Vaundy(バウンディ)。
彼は自身での作詞作曲やアレンジ、映像制作までこなす多才な才能と豊かな歌声を持ち、2020年1月22日に2ndシングル『不可幸力』をリリースしました。

この楽曲の配信と同時に公開されたミュージックビデオは、わずか1ヶ月で100万回再生を突破し、Spotify Premiumの全国地上波放送CM「Spotify Town」編にも採用されました。
その後も様々なヒットチャートで1位を獲得し、Spotify Japanの急上昇チャートでは最高4位にランクインするなど、大きな人気を集めた楽曲となりました。

タイトルである『不可幸力』は、正しくは「不可抗力」と表記され、人々の努力や力ではどうしようもない大きな力を指します。
このタイトルには深い思いが込められており、歌詞からも伝わるメッセージの意味について考察していきましょう。

どこにいっても
行き詰まり そして息道理を
そのままどっかに 出すくだり
そんな劣等も葛藤もみんな持ってる
その理由は同じ
え?

イントロで繰り広げられるラップ調の序章は、封じられた社会の様子を生き生きと描写しています。
「息道理」という言葉は、行き詰まりつつも息を続ける日常と、そうした現実に向けられる「憤り」を具現化しているでしょう。
積もるストレスを解消しようと、自身以外の者に攻撃を仕掛ける社会の暗部を、簡潔に示しています。

Ah
なんでもかんでも欲しがる世界じゃない?
また回る世界に飲まれている
それも理由は同じ
膨らんだ、妄想、幻想、真相を、いやあれを探してる

人間は欲望に忠実な生き物です。
あらゆるものを欲しがっても満たされず、手に入れても新たな欲望が湧き上がり、なかなか満足することはありません。
「妄想」「幻想」が膨らみすぎて、本当に重要なことを見失っているため、自身の欲望と社会の潮流に振り回され、人々は息苦しさを抱えているのです。
しかしながら、その一方で、抜け出す道が別の場所に存在することに気づかされています。
物語の主人公が「あれ」と示すものこそが、その解答なのです。

あれ、なに、わからないよ
それ、なに、甘い理想に
落ちる

しかしながら、物語の中の主人公も「あれ」の実体を解明できていないようです。
何が真に重要であり、自分が何を追求すべきかを把握せず、最終的には再び欲望に敗北してしまうのです。

愛も善と悪の側面を併せ持つ

welcome to the dirty night
みんな心の中までイカレちまっている
welcome to the dirty night
そんな世界にみんなで寄り添いあっている
welcome to the dirty night
みんな心の中から弱って朽ちていく
welcome to the dirty night
そんな世界だから皆慰めあっている

フレーズ「Welcome to the dirty night」の訳は、「ようこそ、汚れた夜へ」となります。
これは、生きづらい社会を風刺的に象徴した言葉と捉えられます。
見かけ上は正常に生活している人々でさえ、内面では狂気が渦巻いている可能性があるかもしれません。
日々の生活が思い通りに進まず、心がすり減っていく様子は、「虚弱で朽ちていく」というフレーズ通りの光景です。
それでもなお、人々は「お互いに寄り添い」「支え合う」ことで繋がっています。
満たされない心情を分かち合いながら、なんとか日々を切り抜けようとするその姿勢は、この世界の美しさを浮き彫りにしているでしょう。

あれ、なに、わからないよ
それ、なに、辛い日々に
沈む

物語の主人公は、まだ「あれ」の謎を解明しようと奮闘しています。
絶え間ない探求の日々は、望むものが見つからない焦りに支配され、心が暗い気持ちに閉ざされているようです。
しかしだんだんと、その答えにたどり着く瞬間が訪れることになります。

愛で
揺れる世界の中で僕達は
キスをしあって生きている
揺れる世界の中を僕達は
手を取り合っている

大サビに入ると、一気にメロディはポップな調べに変わります。
その歌詞には、主人公が求めていたものが「愛」であることが明瞭に表現されています。
キスや手を取り合うといった行為は、愛から生まれるものであり、愛が存在しなければ実現不可能なことです。
このように、愛があれば、たとえ生きづらい現実の中でも何とか前進できるという意味が込められているのでしょう。

ただし、「愛で揺れる世界」という表現に注目すると、前半の歌詞で描かれた生きづらさの原因が実は愛にあるのではないかと示唆されています。
メロディが一変したことも考慮すれば、音楽が多面的な感情を表現するように、愛も善と悪の側面を併せ持つ複雑なものであることを示唆していると言えるでしょう。

幸福になる力には抗えない

なぁ、なんて美しい世界だ
僕ら何度裏切りあっていても
まぁ、なんとか手を取り合うんだ
まるで恋愛映画のラストシーンのような

愛によって生まれる課題が存在するとしても、愛に包まれた世界は、どの視点から見ても美しいと言えるでしょう。
「恋愛映画のラストシーン」という表現は、喜びに満ちたラブストーリーの和やかな雰囲気を思わせます。
裏切りや失望があっても、時間が経てば再び「手を取り合う」瞬間が訪れること。
過去の葛藤や未来への不安は消えることはありませんが、それらを抱えつつもお互いに支え合うことが、愛の素晴らしさの一環なのかもしれません。

「愛で」
靡く世界の中で僕達は
キスをしあって生きている
靡く世界の中を僕達は
目を合わせあって生きる

「靡く」という表現は、風などの外的な力によって揺れる様子を指し、これは人の心の揺らぎや不安定さを象徴している可能性があります。
人生は容易ではないものの、他人とのつながりを通じてお互いの存在を確かめ合いながら生きることで、理想的な幸せの未来が見えてくることでしょう。
タイトルの『不可幸力』は、おそらく「幸福になる力には抗えない」という意味でしょう。
この解釈により、愛の力の重要性と美しさが感じられます。

同じ読み方でも、一文字違うだけで意味が全く異なります。
同様に、難しい状況も視点を変えれば希望が見えてくることがあります。
この楽曲は、そうした前向きな気持ちを鼓舞し、聴く人に勇気と希望をもたらすものと言えるでしょう。

まとめ

CMソングやドラマ主題歌に抜擢され、広く支持を受けているVaundy。
その彼が『不可幸力』という楽曲で歌うのは、失敗や迷いに悩む人々の普遍的な感情です。
世界を大きく変えることは難しいかもしれませんが、愛を心に抱き続ければ、幸福な瞬間もやってくるでしょう。
大切なものについて、音楽を通じて再び気づかされることでしょう。
この思いを忘れてはいけません。
彼の1stアルバム『strobo』には、深いVaundyの魅力がたっぷりと詰まっています。
他の楽曲との違いを楽しみつつ、歌詞を丹念に聴いてみることをおすすめします。