30年も前に結成されたにも関わらず、ウルフルズは今もなお新しい「おもろい」音楽を模索し続けています。
彼らの活動を支えるのは、関西人の本能であり、その本能が彼らに命をかけて面白いことを追求させているのです。
代表曲「ええねん」の歌詞に込められたメッセージから、ウルフルズの才能の源と関西人魂に迫ります。
大阪弁の歌詞
「関西弁」というと、関西全体で同じ方言と思われがちですが、実際には大阪や京都、兵庫など、微妙にニュアンスが異なります。
音楽の歌詞では主に大阪弁が使われるため、「関西弁」と聞くと大阪弁を指すことが一般的です。
ウルフルズが登場する以前の大阪弁の歌詞は、やしきたかじんの『やっぱ好きやねん』など、ブルース系のアーティストがよく使っていました。
これらの歌詞は、「夜」「女」「酒」「涙」といったイメージが強く、1980年代の大阪の若者にとっては馴染み深い大阪弁の歌詞でしたが、現実感に欠ける部分もありました。
等身大の大阪人の姿
ウルフルズがデビュー前にアルバイトをしていた大阪中津のインド喫茶「カンテ・グランテ」は、流行に敏感な大阪の若者に愛される店でした。
そして、そこで働くウルフルズも、ミナミ(難波)のアメリカ村周辺に集まる音楽好きの若者たちの間で、すでに知られた存在でした。
ライブハウスを中心に活動していたウルフルズは、ある日突然ブレイクします。
家に帰ってテレビをつけると、見覚えのある派手な顔がメジャーな歌番組で歌っているではありませんか。
“これ、ウルフルズやん!”と驚いた大阪の人々は多かったでしょう。
全国的に有名になっても、それまでのスタイルを変えることなく、1995年に発表された『大阪ストラット』で、マクドナルドを「マック」ではなく「マクド」と呼んだウルフルズには、等身大の大阪人の姿が反映されていました。
今では関西でも「マック」派が増えていますが、当時は「マクド」がナニワのプライドでした。
そんなリアルな大阪弁で歌うウルフルズは、大阪人にとってソウルフルなバンドとして愛されました。
みんなが理解してくれるし、自分の好きなようにすればいい
関西弁の「ええねん」は、「そやねん」「知らんけど」と並ぶ、関西人にとって欠かせないフレーズの一つです。
「ええねん」は、状況によってさまざまな使い方があります。
ウルフルズの『ええねん』から、関西人の「ええねん活用法」を学んでみましょう。
僕は お前が ええねん
好きでいれたら ええねん
同じ夢を見れたら ええねん
そんなステキな ふたりが ええねん
関西人は、外見からは意外かもしれませんが、実は恥ずかしがり屋です。
好きな人に直接好きだと告げるのは、なかなか勇気がいることです。
そんな時に便利なのが、「ええねん」という言葉です。
相手が自分を好きでいてくれること、一緒に夢を追いかけられること、それだけで充分です。
そんな二人が一緒にいることが最高だと、ウルフルズは力強く歌っています。
恋愛の場面で「ええねん」を使うということは、「愛してるよ」という意味になります。
アイディアなんか ええねん
別になくても ええねん
ハッタリだけで ええねん
背伸びしたって ええねん
上方漫才を聴いていると、「お前、アホちゃうか」というセリフをよく耳にしますが、関西人がそれを使うからと言って、頭が悪いわけではありません。
実際には、知識よりも直感で生きる人が多いのです。
そして、勘が外れて失敗した時、意外と繊細な関西人は、「自分ってアホやなぁ」とつい自分を責めてしまいます。
そんな人に対して使われる「ええねん」は、利口でなくてもいいし、いい加減でもいい。
自分の得意なことで生きていけ、と勇気付けるものです。
この場合の「ええねん」は、「自分を信じなあかん!」という意味になります。
情けなくても ええねん
叫んでみれば ええねん
にがい涙も ええねん
ポロリこぼれて ええねん
関西人は一般的に負けず嫌いです。
彼らが涙する時、男女を問わず、悔し涙の場面が多いと言えます。
この歌詞での「ええねん」は、情けなくて悔しい時は、思い切り叫んで泣いてもいいし、そして少し休んだら、また笑おう。
自分が惨めかどうかを決めるのは、自分自身なのだから、と諭しています。
ここでは「ええねん」は、「自分を大事にしなさいよ!」という意味です。
関西人が「ええねん」というたった4文字に、こんなにも多くの意味を込めるのはなぜでしょうか。
それは、何度も言うように、関西人が実はとてもシャイだからです。
天性のお笑いセンスで人を笑わせることは得意なものの、いざ真面目な話になると、途端に口下手になってしまう関西人は、「ええねん」に全ての気持ちを詰め込みます。
そして、相手も関西人なら、「ええねん」の意味を無言で理解します。
「ええねん」は、関西人にとっての魔法の合言葉なのです。
何も言わんでも ええねん
何もせんでも ええねん
笑い飛ばせば ええねん
好きにするのが ええねん
2003年にリリースされた『ええねん』は、ウルフルズのベーシストであるジョン・B・チョッパーへのメッセージソングでもあります。
バンドを一度脱退し、再び戻ってきた彼に対する思いが、特に曲の冒頭部分に表れています。
ジョンBは意外と繊細な関西人であり、復帰の際には葛藤があったことでしょう。
バンドのメンバーが彼に対して、“ええねん!”、“そやねん!”、“知らんけど!”と声をかけ、ジョンBが“なんでやねん!”と突っ込んで、すべてが解決したと想像されます。
『ええねん』では、何も言わなくてもいいし、何もしなくてもいい。
みんなが理解してくれるし、自分の好きなようにすればいいという優しさが込められています。