【アルジャーノン/ヨルシカ】歌詞の意味を考察、解釈する。

TBSのテレビドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』のメインテーマとして制作されたヨルシカの15thシングル『アルジャーノン』は、穏やかな歌詞が特徴です。
この曲は、大切な人に寄り添い、優しく見守る心情を歌っており、その深い意味を解き明かしてみましょう。

ドラマと絶妙にリンクする歌詞

2023年2月6日にヨルシカがリリースしたシングル『アルジャーノン』は、広瀬すずと永瀬廉が共演する人気テレビドラマ『夕暮れに、手をつなぐ』の主題歌として特別に制作されました。
この曲のタイトル『アルジャーノン』は、多くのリスナーがダニエル・キイスの小説『アルジャーノンに花束を』に触発されていることに気付いたことでしょう。
小説は、動物実験によって知能が高まったハツカネズミ・アルジャーノンと、知的障害を抱える青年・チャーリーの物語です。
チャーリーは脳手術を受けて天才的な知性を手に入れるものの、その結果が必ずしも幸福とは限らないことを知ることになります。

この楽曲についてコンポーザーのn-bunaは、「貴方」が迷路のような状況に身を置きながらも、進むべき方向に進み続ける姿勢に感銘を受ける主人公の感情を表現していると語っています。
歌詞の中で描かれる2人の関係性は、チャーリーとアルジャーノンのように、お互いを支え合いながら進む姿を象徴しています。
空豆と音が互いを見つめ合うような美しい結びつきが、歌詞を通じて感じられます。

この曲がどのようにしてドラマの物語や登場人物の心情を表現しているのか、その意味をじっくりと考察していきましょう。

貴方はどうして僕に心をくれたんでしょう
貴方はどうして僕に目を描いたんだ
空より大きく 雲を流す風を呑み込んで
僕のまなこはまた夢を見ていた
裸足のままで

歌詞は、主人公が「貴方」に向けて綴る問いかけから始まります。
自身が「心をくれた」「目を描いた」といったフレーズを通じて、恋に落ちることで初めて感情の揺れを知り、以前には見えなかったものが見えるようになり、心や視野を新たに手に入れたことを表現しています。
しかしながら、「どうして僕に目を描いたんだ」という言葉遣いは、相手を責めるような印象を受けるかもしれません。
これは、新たな視点によって恋の苦しさや、過去に気づかなかった現実の一面に直面することから生じる戸惑いを表しているでしょう。

それでも、この結果にもかかわらず、主人公の瞳は過去の夢を再び探し求めようとしています。
この歌詞における「裸足のままで」という表現は、自分自身を偽らずにありのままの姿でいられるようになったことを意味しており、それは「貴方」との出会いによって支えられていると歌われています。

このようにして、歌詞は主人公の感情の変化や成長、そして「貴方」との特別な関係が織り交ぜられており、深い感情が歌われています。
これを通じて、ドラマのテーマや登場人物の心情が豊かに描かれていることが伝わってきます。

自分の無力感

貴方はゆっくりと変わっていく とても小さく
少しずつ膨らむパンを眺めるように
貴方はゆっくりと走っていく
長い迷路の先も恐れないままで

主人公は、自分だけでなく、「貴方」も変化していることに気づきます。
小さな変化は、まるでパンがじっくりと発酵して時間をかけて膨らんでいくようであり、これはじっくりと観察しなければ気付かないものです。
心と視野を手に入れたからこそ、大切な人の変容に気づけるようになり、成長することができたのです。
このようにして、主人公は自分と「貴方」の関係性を通じて、変化と成長の意味を理解しています。

「長い迷路」は、目標を達成する過程や夢を追い求める道のりを象徴しています。
しかし、未知の先に何が待っているのか分からず、どこがゴールなのかも不確かなため、進むことは不安を伴うものです。
その中で、「貴方」は恐れずにゆっくりと前に進んでいる様子が描かれています。
歌詞の中の「ゆっくりと走っていく」は、急いでいるのではなく、夢や希望に胸を膨らませているからこそ、自然と速いペースで進む姿勢を想起させます。

この穏やかな進行の中にある強さや勇気に、主人公は心を引かれた可能性があります。
その無鉄砲なように見える行動に、自身に欠けている何かを感じ、惹かれていることを歌詞は示唆しています。

貴方はどうして僕に名前をくれたんでしょう
貴方はどうして僕に手を作ったんだ
海より大きく 砂を流す波も呑み込んで
小さな両手はまだ遠くを見てた
あくびを一つ

その人は、主人公に名前と手を差し伸べてくれました。
名前は個人のアイデンティティを示すものであり、自己理解が深まったことを象徴している可能性があります。
また、「手」は行動や力を象徴しており、主人公が能動的に物事を進める手段を手に入れたことを示唆しています。

しかしながら、手があるにも関わらず、未熟さが際立つというのも事実です。
自身の限られた能力や無力さに戸惑いや苦悩を抱えている様子が描かれています。
周囲には進みたい方向に手を差し伸べている「貴方」がいるにもかかわらず、主人公はまだまだ遠くを見ているだけで、行動に移せていないという葛藤が伺えます。

そのもどかしさの中で、主人公はあくびをする光景が描かれています。
このあくびは疲労や消耗感を示唆し、主人公の心の内面を表現しています。
状況に対する無力感や努力の不足を感じている様子が、歌詞を通じて伝わってきます。

人生の迷路を進んでいく

僕らはゆっくりと眠っていく
とても長く 頭の真ん中に育っていく大きな木の
根本をゆっくりと歩いていく
長い迷路の先を恐れないように

歌詞に登場する「頭の真ん中に育っていく大きな木」というフレーズは、将来の人生計画や方向性を表している可能性が考えられます。
現在は、まだ多くの可能性が広がっており、将来の基盤を築いている段階にいることを描写しています。
この状態は、長い迷路の入り口に立つような感覚で、進む先が見えない中で進んでいかなければならないという課題が示唆されています。

しかしながら、主人公は自分に心強い味方がいることを知っています。
これにより、長い旅路の途中で時折休息をとることができるようになります。
「長い迷路の先を恐れないように」という歌詞からは、2人がお互いに支え合いながら進んでいく決意が透けて見えます。
これは、将来への希望や夢を胸に、現在を確実に歩んでいく意志を表していることが読み取れます。

この歌詞を通じて、主人公の成長や「貴方」との絆、未来への向かい合う姿勢が感じられます。
どのような困難が待ち受けているか分からない中でも、2人は力を合わせて進む覚悟を持っていることが伝わってきます。

いつかとても追いつけない人に出会うのだろうか
いつかとても越えられない壁に竦むのだろうか
いつか貴方もそれを諦めてしまうのだろうか
ゆっくりと変わっていく

これから待ち受けるかもしれない挫折や苦難について考えると、時にはあの強く輝く「貴方」ですら諦めてしまう瞬間があるのではないかと心配がよぎります。
不安要素は数多くありますが、じっくりと変化していく思考や選択、行動を通じて、難題にも立ち向かうことができるのではないかと信じています。
変化は徐々に進行しているとすれば、私たちは困難を克服していくための力を身につけていけるはずです。
必要な転換は、実際に今すでに始まっているのです。

僕らはゆっくりと忘れていく とても小さく
少しずつ崩れる塔を眺めるように
僕らはゆっくりと眠っていく
ゆっくりと眠っていく

貴方はゆっくりと変わっていく とても小さく
あの木の真ん中に育っていく木陰のように
貴方はゆっくりと走っていく
長い迷路の先も恐れないままで
確かに迷いながら

目の前にそびえる塔が、ゆっくりと崩れていくように、過去の辛い経験や痛みなどが、時間の流れとともに徐々に忘れられ、消えていく様子が描かれています。
これによって、前に進む際の障害が減少し、進むことへの不安も小さくなっていくことが予想されます。
また、2人が一緒にいる時に感じる安心感が、お互いの心を癒していくプロセスが見え隠れするかもしれません。

木の成長には時間がかかりますが、やがて生まれる木陰は安らぎを提供してくれます。
同様に、ゆっくりと成長していく心地よい関係性が、心に平穏とした安定感をもたらしてくれるのかもしれません。
この歌詞から、2人の関係もまた、時間をかけて着実に育んでいくことを暗示しているように感じられます。

「貴方」は勇敢に前に進む姿勢を持っていますが、迷路の中で途中で道に迷うこともあるでしょう。
その魅力は、進みながらも迷いつつも、最終的にゴールに到達するために諦めずに努力し続けることにあります。
主人公は「貴方」とともに、人生の迷路を歩みながら進んでいく願いや静かな愛情を抱いている様子が描かれています。

まとめ

『アルジャーノン』は、恋愛という永遠のテーマをヨルシカの独自の表現で美しく描いた、心温まる作品です。
この楽曲は、夢を追う男女の愛の物語が織り交ぜられたドラマのストーリーとも共鳴し、また夢に向かって歩む人々にも共感を呼ぶ素敵な楽曲となっています。

アルバム『幻燈』にも収録されており、その魅力を楽しむことができます。
これからもますます注目を浴びるアーティスト・ヨルシカの音楽が、令和の時代に鮮やかな色彩を添えることでしょう。
ぜひその魅力に浸りながら、新しい世界を楽しんでみませんか?