Saucy Dogの曲『いつか』は、初のミニアルバム『カントリーロード』に2017年に収録されました。
この曲は、前年のオーディションで演奏されたものであり、バンドの初期から存在する楽曲です。
リリースから時間が経ってもなお人気があり、今もなお注目を集める『いつか』の歌詞について考察してみましょう。
もう過去の出来事
坂道を登った先の暗がり
星が綺麗に見えるってさ
地べたに寝ころんじゃうあたり
あぁ君らしいなって思ったり
時間を忘れて夢中になった
赤信号は点滅している
肌寒くなり始めた季節に
僕らは初めて手を繋いだ
2人の物語
「僕らは初めて手を繋いだ」「2人の物語」というフレーズから考えると、この歌詞は新しく恋人同士になったばかりの2人の関係を描いているようです。
交通量の少ない夜間には、信号機が点滅モードに切り替わることがあります。
おそらく、この歌の中の2人も夜遅くに外出したのでしょう。
主人公の「僕」が、「君」と一緒に星が美しく輝く場所に行って、そこで恋心を告白した可能性が考えられます。
また、「肌寒くなり始めた季節」という描写から、物語の舞台は秋が深まるころか冬の初め頃ではないかと思われます。
2人でひとつの傘を差したり
ブランコに乗り星を眺めたり
押しボタン式の信号機を
いつも君が走って押すくだり
仰向けになって見た湖
宙に浮いてるみたいってさ
はしゃいでいる君とその横でさ
もっとはしゃぐ僕なら
本当に飛べるような
気がしていた
フワフワと夢心地
君の隣
後の歌詞では、恋人同士になったばかりの2人の日常が描かれています。
雨の日には一緒に相合傘をさしたり、星を眺めたりするなど、2人の日常の風景が描かれており、その仲睦まじい様子が浮かび上がります。
しかし、歌詞の中で「もっとはしゃげる自分」を思い返す部分があり、「僕」が「君」と同じように楽しく過ごすことができなかったことを後悔しているような印象があります。
この歌詞は過去形で綴られており、2人が共に過ごした日々が既に過去の出来事であることがうかがえます。
簡単には受け入れられない
君の見る景色を全部
僕のものにしてみたかったんだ
あぁ君を忘れられんなぁ
二人がずっと共にいるならば、「君」と「僕」の眺める景色も同じものになることでしょう。
「君の見る景色を全部 僕のものにしてみたかったんだ」という一節の後には、「しかしそれは叶わなかった」という思いが込められているのかもしれません。
その後の「あぁ君を忘れられんなぁ」という歌詞からは、2人が今は別々の道を歩んでいることがうかがえます。
当たり前に通ってたあの道
信号機は無くなるみたいです
思い出して切なくなる気持ちも
いつかは無くなるみたいです
この歌の中で登場する「信号機」は、冒頭で赤信号が点滅していたものであり、その後「君」が走ってボタンを押しに行ったものかもしれません。
この大切な信号機が失われることと、「君」への思いがいつか薄れてしまうことが、重ねられているように感じられます。
そういえば寒い雪降る日の
田和山の無人公園でさ
震える体
暗い中いつものように笑い合う
街灯の下で
僕の目に映りこんだ君が
いつもよりちょっと
寂しそうな気がした
2人が初めて手を繋いだのは、「肌寒くなり始めた季節」だったため、主人公が回想しているのは、付き合いが始まってしばらく経った頃の出来事のようです。
「君」が寂しそうに見えたのは、実際には主人公がそう感じたためであり、実際に「君」が寂しい思いをしていたかははっきりとは分かりません。
ただ、この出来事から2人は将来の「別れ」を予感していたかのように感じられます。
今になってさ
思い出してさ
後悔じゃ何も解決しないさ
忘れられないのは
受け入れられないのは
君を思い出にできる程
僕は強くはないから
「もっと長い時間を共に過ごしていれば」「もっと気持ちを伝えていれば」といった後悔の念は、過去を変えることは不可能であるという現実を示しています。
「思い出」という言葉は、過去を指し示すものであり、過去の日々を「思い出」として刻むことは、「君」がもはや自分のそばにいないことを認める行為と言えるでしょう。
「君」との別れを受け入れることができない「僕」の心情が、この歌詞を通じて感じられます。
もう会えない
歌詞中では、2人がなぜ幸せそうだったにもかかわらず別れてしまったのかについて、明確な言及はありません。
しかし、曲のラスト部分から、2人が離れてしまった理由についての考察を行うことができるかもしれません。
僕の見た景色を全部
君にも見せてやりたかったんだ
あったかいココアを一口
いつかまた逢う日までと
笑う顔に嘘は見当たらない
じゃあね
またどっか遠くで
いつか
歌詞の最後で、「いつかまた逢う日まで」という言葉を交わして別れたようです。
ただし、恋人同士としての絆を終わらせる場面で、再会を望むような表現はやや不自然に感じられるかもしれません。
この場面から考えると、2人が別れざるを得ない状況にあった可能性が考えられます。
一つの仮説として、「君」が病気や他の事情で亡くなってしまったことによる別れだった可能性が考えられます。
もしも「君」がもはや「僕」の現実世界に存在しないとしたら、歌詞中の「僕の見た景色を全部 君にも見せてやりたかったんだ」というフレーズもさらに重みを帯びてきます。
楽曲のタイトルでもある『いつか』という言葉で歌詞が締めくくられています。
「いつか」の再会の約束には、もう会えない「君」への切なる思いが込められているかもしれません。
実体験ではある
Saucy Dogの楽曲『いつか』について、インターネット上の検索結果には「実話」「彼女」「亡くなった」といった言葉が関連して現れることがあります。
作詞を手がけた石原慎也(Vo/Gt)は以前のインタビューで、「歌詞は実体験に基づいて書かれており」「もう会えない人に向けての歌」と述べていますが、具体的に「亡くなった恋人に捧げた歌」であるという言及はないため、信憑性は確定的ではありません。
ただし、歌詞中の「田和山の無人公園」は石原の地元・松江市に存在し、「忘れられんなぁ」は島根の方言表現、「仰向けになって見た湖」は「宍道湖」を指していると石原自身がコメントしています。
ちなみに、同じく人気のあるSaucy Dogの楽曲『シンデレラボーイ』にも「好きって言わんでよ」という地方の方言が歌詞に登場します。
これらの地元に関する要素を楽曲に取り入れた歌詞を通じて、Saucy Dogの音楽を楽しむことも一つの面白いアプローチかもしれません。
あなた自身は、『いつか』の歌詞にどのような解釈を感じますか?