【コバルトブルー/THE BACK HORN】歌詞の意味を考察、解釈する。

バックホーンの代表曲の一つであるこの曲は、テーマとして「特攻」を掲げています。

曲は特攻の前夜から突入までを、激しいアレンジと力強いヴォーカルで表現されています。

作曲者である菅波栄純氏は、知覧の特攻平和祈念館を訪れた際に強い衝撃を受け、この曲を作曲しました。

今回はこの曲の歌詞を解釈しながら、特攻に関連するエピソードを交えてご紹介していきます。

まずはイントロです。

このフレーズはJロックの名フレーズとしても有名で、私はこれを「エンジンの始動音」と捉えています。

少し静かでありながら、規則的なリズムを持ったフレーズです。

そして1番の歌詞。

この夜が明ける頃 俺たちは風になる

特攻作戦では、通常、夜明け前の非常に早い時間に出撃することが求められます。
歌詞では、夜が明ける頃には既に航空機に乗り込んでおり、空中にいることが歌われています。

特攻作戦では、光り輝く朝日が昇る前に出撃し、天空で勇敢に戦う様子が描かれています。

だけど俺たち泣くためだけに生まれたわけじゃなかったはずさ

ただひたすらに生きた証を刻むよ今

残された写真には、多くの人が明るく笑顔を浮かべている様子が写っています。
しかし、実際には夜中になって声を殺して泣いている隊員も多かったそうです。

写真では笑顔が溢れているが、実際には特攻隊員たちは内心で悲しみや苦悩を抱えながらも、勇敢に任務に臨んでいたのです。

彼らの必死の戦いによって刻まれた生きた証は、まさに「敵艦への爪痕」です。
その光景は切なさを伴いますね。

俺たちは風の中で砕け散りひとつになる

辿り着く場所も知らぬまま燃え尽きる

特攻隊員たちは敵艦への突入を試みていましたが、現実は非情なものでした。

特攻作戦の成功率(命中率)は1割強と言われています。
多くの機体が敵艦に辿り着く前に撃墜されていったのです。

この歌詞では、「風の中で砕け散る」と表現されており、その切なさが伝わってきます。

また、「辿り着く場所も知らぬ」という部分は、未熟なパイロットは正確な航法を取ることが難しいという現実を鋭く指摘しています。

実際に航空機を目的地に向かって飛ばすことは容易ではありません。
機体の速度や目的地までの距離、到着予定時刻と地球の自転によるコリオリの力、気流などの計算が複雑に絡み合います。

戦場の極限状況で、総合的な計算能力が求められるのです。

「敵艦を見つけて真っ直ぐ突っ込めばいい」というわけではないようです。
敵艦を発見しても、特定の距離になったら俯角20度で降下し、加速しながら突入するなど、細かな手順や計算が必要だったようです。

特攻隊員たちは詰め込み教育を受けた促成のパイロットであり、その状況下での戦いに挑みました。

そのため、敵艦を見つけられずに帰還する機体も多かったと言われています。

特攻機が出撃する前には敵の情報を仕入れるために偵察機が飛ばされましたが、その偵察機ですら敵艦を見つけることは難しかったようです。

そして、2番の歌詞。

この夜が明けるまで酒を飲み笑いあう

俺たちがいたことを死んだって忘れない

1番の部分から一転して、日常的な雰囲気が漂うパートに移りますね。
歌詞では、お酒を飲みながら「靖国で会おうな」と言い合っている場面が描かれています。

「面倒臭えな」「逃げちまおうか」今更誰も口にはせずに

あどけないまま眠る横顔 震える胸

特攻隊員たちは、死を覚悟しているはずなのに、理性ではなく恐怖が押し寄せてくるという切ない歌詞ですね。

歌詞を聴くと、三角兵舎の隊員たちの涙が思い浮かびます。
この曲は、「境地」と「人として持つべき心理の極限」を同時に描写することで、切なさと現実味を増しています。

「あどけない」というフレーズは、特攻隊員たちの若さを示しています。
自分よりも年下の人たちが多いので、自分もまだ十分に若いはずなのに、それ以上に若い人たちがいるというのです。
17歳から23歳くらいの人たちが特に多いです。

さらに、その年齢層以上の隊員たちは、ほとんどが妻子を持っていました。

特攻隊員たちの遺書を読むと、胸が痛みます。
中には子供への遺書もあります。
子供でも読めるように、全てカタカナで書かれているものもありました。
私でも原文で読むことができました。

遺書には、「ちゃんといい子にしなさい」「健康に育てよ」といったことが書かれているのですが、最後の最後に「大きくなったらアメリカをやっつけるんだぞ」と書かれていて……当時の戦争の潮流が恐ろしく感じられますね。

これが当時の教育のごく当たり前の一環であったことが、狂気的なものではなく浮かび上がります。
現在の価値観から見ると理解しがたい部分もありますが、「でも親子なんだよな」と思わずにはいられません。

そして、サビの部分。

愛しさも淡い夢もこの空に溶ければいい

誰も皆コバルトブルーの風の中

特攻隊員たちは、それぞれが思いを抱えながら立ち向かっていました。
特攻作戦の前、風に散ることを覚悟していたのですね。

歌詞では、夜明け前の空の色を詩的に「コバルトブルー」と表現しています。

実は、当時のメリケン戦闘機であるF6Fヘルキャットの機体の色もコバルトブルーでした。
この表現は、特攻隊員たちが現在敵機の迎撃を受けている状況を表しているようにも聞こえます。

前述の通り、特攻機のほとんどは敵艦に到達する前に撃墜されてしまいました。
そのため、「コバルトブルーの風の中」とは、敵の優れた防空網や圧倒的な迎撃機の数を指している可能性も十分に考えられます。

そして、ラスサビ。

俺たちは風の中で砕け散りひとつになる

大袈裟に悲しまずにもう一度始まっていく

「大袈裟に悲しまずに」というフレーズは、この曲における重要なキーワードだと思っています。

それは、あまりにも悲しい思いをすることなく、過去を引きずりすぎないようにというメッセージです。

特攻隊員たちの遺書の多くも、このような感覚で締めくくられており、それが特攻の現実を描写した名文句と言えるかもしれません。

以下は、遺書から一部抜粋した文言です。

婚約をしてあった男性として、散って行く男子として、女性であるあなたに少し言って征きたい。

あなたの幸を希(ねが)う以外に何事もない。

いたずらに過去の小義にかかわるなかれ、あなたは過去に生きるのではない。

なんて……なんてことなんだろう……。

このような遺書を読んでいると、胸が締め付けられて泣きたくなります。

そして、その思いを「大袈裟に悲しまずにもう一度始まっていく」というフレーズに凝縮した菅波先生の才能には、ただただ感嘆するばかりです。

コバルトブルーは本当に格好良い曲ですが、歌詞がこんなにも生々しくリアルなものであるとは驚きです。

ぜひ人生の中で一度は知覧や鹿屋、万世飛行場などに足を運んでいただきたいと思います。
すべてが鹿児島にありますよ。

そこでの体験はきっと衝撃的なものになることでしょう。

余談ですが、カップリングの『白い日記帳』も特攻前夜の男女を思うと、涙が止まらなくなります……。

では、今日はこの辺で。