一度聴いたら忘れられないフレーズ
好みや嫌悪は置いておくとしても、一度聴いたら忘れられない歌詞のフレーズはありませんか。
私にとっては、特にヒップホップやラップの歌詞に多く見られるものです。
東京生まれヒップホップ育ち 悪そうな奴は大体友達
Grateful Days/Dragon Ash featuring Aco, Zeebra
よくないこれ?これよくない?よくなくなくなくなくなくない?
今夜はブギー・バック (nice vocal)/小沢健二 featuring スチャダラパー
大親友の彼女のツレ おいしいパスタ作ったお前
純恋歌/湘南乃風
これらのフレーズは、曲を正確に聴いたことがない人でも、どこかで耳にしたことがあるのではないでしょうか?
興味深いことに、これらのフレーズは必ずしもサビに使われているわけではありませんが、人々の記憶に残り、さまざまな文脈で話題にされているものです。
そして、その中でも特に注目すべきは、湘南乃風の「純恋歌」です。
たとえば、「Grateful Days」の場合、そのフレーズだけでヒップホップの精神やシーン、そしてユーモアについて一言で理解させることができる名フレーズです。
「今夜もブギー・バック」のフレーズは、言葉のリズムが心地よく、口ずさみたくなるリズムとユーモアがあります。
しかし、湘南乃風は、親友の彼女の友人がパスタを作ってくれたという報告をしているだけです。
では、なぜ湘南乃風の歌詞がただの報告でありながら、強烈な印象を与えるのでしょうか。
それは、湘南乃風がパスタに対して持つイメージが、一般的な人々のパスタに対するイメージとは全く異なるからではないでしょうか。
一目惚れではない?
家庭的な女がタイプの俺 一目惚れ
このフレーズは、”おいしいパスタ作ったお前”という一文の後に続く歌詞です。
ここで注目すべきは、”家庭的な女がタイプの俺 一目惚れ”という部分です。
しかし、そもそもパスタは本当に家庭的な料理なのでしょうか。
Googleで検索すると、パスタが家庭的な料理とされているかについて疑問を持つ人も多いようです。
男性にとって家庭的な料理と言えば、肉じゃがやカレー、さばの煮つけなどを思い浮かべるかもしれません。
パスタは一人暮らしの大学生が手軽に安く作れる代表的な料理です。
また、高級なレストランで食べる本格的なパスタもイメージの一部かもしれません。
(ここでは主人公がイタリア人ではなく、日本人であると仮定しています。)
そして、このフレーズにはもう一つ気になる点があります。
それは、主人公がパスタを作ったから一目惚れしたという点です。
まず、一目惚れとは通常、外見や雰囲気、第一印象によって「この人がいいな」と思い、興味を持つことを指します。
しかし、この主人公は「パスタを作れるなんて家庭的だ!本当に好きだ!」という感情を抱いています。
料理を作るには時間がかかりますし、主人公はパスタができるまで待つ時間もあったでしょう。
その間に大親友から「この子は俺の彼女の友達だから」と紹介され、挨拶をするほどの時間があったと推測されます。
つまり、そこで一目惚れしなかった時点で、実際には一目惚れではなかったのかもしれません。
ここから推測すると、主人公が一目惚れした相手は、”美味しいパスタを作ったお前”ではなく、パスタそのものだったのかもしれません。
主人公がパスタに惚れてしまった理由を含めて、さらに歌詞を解釈していきたいと思います。
全然一途ではない
大貧民負けてマジ切れ それ見て笑って楽しいねって
優しい笑顔に癒されて ベタ惚れ
このフレーズは、主人公がパスタに一目惚れした後の歌詞です。
主人公が大貧民で負けてマジ切れしているという状況から、彼の人格の欠点や心の闇が読み取れる表現となっています。
具体的に何が問題かというと、大貧民に負けてマジ切れしている自分を笑って受け入れてくれる相手に心を奪われていることです。
つまり、主人公は自分がクソみたいな態度をとっていても、受け入れてくれるような包容力のある女性と一緒にいたいと思っているのです。
要約すると、主人公が求めているのは、自分に都合の良い愛想が良く世話をしてくれる女性ということでしょう。
その後、主人公はスキップしたり突然抱きついたりと、かなりハイスピードな展開でこの女性と付き合うことになりましたが、付き合い始めたばかりなのにサビの歌詞から主人公の欠点やクズな面がにじみ出てしまうことになります。
目を閉じれば億千の星 一番光るお前がいる
初めて一途になれたよ 夜空へ響け愛の歌
このサビの歌詞は、正直に言ってしまうとかなり問題的です。
“パスタ作ったお前”に対して”一途である”という演技をしている部分も、主人公のクズさを露呈していると言えます。
歌詞の内容は女性を星に例えており、”パスタのお前”を「一番光るお前」と形容し、愛を歌っているように思わせます。
しかし、”夜空へ響け愛の歌”というフレーズから、主人公のクズさが透けて見えます。
実際に夜空に愛の歌を響かせると、”パスタ作ったお前”以外の女性にも愛の歌が届いてしまうことになります。
つまり、”パスタ作ったお前”が一番好きなのにもかかわらず、他の女性にも手を出しているということです。
彼は「お前に一途なんだよ」という言葉で多くの女性に声をかけているのかもしれません。
それなのに、本命の”パスタ作ったお前”が存在するにもかかわらず、彼は他の女性にも興味を持っているようです・・・
自分の未熟さに気付き始める
折り合いがつかないときは 自分勝手に怒鳴りまくって
パチンコ屋逃げ込み 時間つぶして落ち着かせて
景品の化粧品持って 謝りに行こう
“パスタ作ってよ”と主人公が”パスタ作ったお前”に頼んだにも関わらず、作ってもらえなかったことに対し、主人公は怒鳴って切れている様子が想像できます。
そして、気を落ち着かせるためにパチンコ屋に行くという部分でも、主人公のクズさが浮かび上がります。
パチンコを否定するつもりはありませんが、この主人公は負けてしまった場合、ますます不機嫌になって家に帰ってくることでしょう。
もし謝りに行くとしても、パチンコで勝ったから景品を持って化粧品を謝罪の品として持っていくだけです。
勝って気分が良くなったから景品を手にして謝罪に行くのです。
馴れ合い求める俺 新鮮さ求めるお前
お前は俺のために なのに俺は俺のために
春の夜風に打たれ 思い出に殴られ
傷重ねて 気づかされた大事なもの握りしめ
このフレーズによっても、主人公のクズさが明らかになります。
しかし、「お前は俺のために なにに俺は俺のために」というフレーズからは、主人公自身も自分のクズさに気づき始めていることが伺えます。
それでも、「傷重ねて気づかされた大事なもの握りしめ」というフレーズからは、自分のクズさに気づきながらも「自分が傷ついた」という被害者意識も抱えていることがわかります。
彼女の母性に惹かれた?
この状況からは、主人公が家庭環境に対して何らかのコンプレックスを抱いている可能性が考えられます。
まず、主人公がヒロインに一目惚れした理由が「おいしいパスタを作ったから」であったことに注目します。
そして、彼がヒロインにベタ惚れした理由が「大貧民で負けてマジ切れしている自分に優しくしてくれたから」であることにも意味があります。
主人公は家庭環境に何らかのコンプレックスを抱いていたのかもしれません。
彼が「家庭的な女性がタイプ」と感じたのは、自身が親からの愛情に飢えていたからかもしれません。
彼は美味しい料理を作ってくれるだけでなく、自己中心的な自分をも受け入れてくれる、母親のような女性を求めていたのかもしれません。
そのため、彼は時折自己中心的に怒鳴ったり怒ったりすることがあり、愛情表現も不器用かもしれません。
彼が謝る際も素直に謝ることができず、「これ、パチンコで勝ったからお前にやるわ」と言ってパチンコの景品である化粧品を「パスタ作ったお前」にプレゼントしていたと想像できます。
主人公はクズではなく、実際はいい人なのですが、さまざまなことが不器用なのかもしれません。
目を閉じれば億千の星 あんなに輝いていたのに
今では雲がかすめたまま それが何故かも分からぬまま
上記の部分は2番のサビの歌詞になります。
この歌詞から読み取れるのは、主人公が以前は自己中心的であったが、次第に彼女も彼の我慢できない行動や受け入れられない側面が増えてきたということです。
それによって、主人公もついに自分のクズな一面や失敗した部分、そして彼女との関係や将来について真剣に考え始めるようになります。
本当に大切なものに気付いた主人公
LOVE SONGもう一人じゃ生きてけねえよ
側にいて当たり前と思ってたんだ
LOVE SONGもう悲しませたりしねえよ
空に向け俺は誓ったんだ
LOVE SONGヘタクソな歌で愛を バカな男が愛を歌おう
これは大サビの歌詞になります。
主人公の心境の変化が伝わるでしょうか。
“パスタ作ったお前”がそばにいることが当たり前ではないことを理解しました。
彼女を悲しませないことを誓います。
そして、「バカな男が愛を歌おう」というフレーズから、主人公が自分自身を愚か者と認識したことがわかります。
曲の最後の歌詞は以下です。
目を閉じれば億千の星 一番光るお前が欲しいと
ギュっと抱きしめた夜はもう二度と忘れない
届け愛の歌
それまでの主人公は女性を星に例えて、「パスタ作ったお前」を一番輝く星として讃えつつも、「夜空へ響け愛の歌」という形で不特定多数の女性に対して愛を歌っていました。
しかし、最終的には、最も大切な存在である「パスタ作ったお前」のためにのみ愛の歌を届けようとする主人公となりました。
この純恋歌は、ラブソングの一方で、主人公がクズからまともな人間へと成長するまでの過程も描かれています。
なぜパスタだったのか?
ここまで読み解くと、なぜ歌詞でパスタが選ばれたのか、その必然性が明らかになってきます。
主人公が本当に求めていたのは「家庭的な女性」ではなく、自分を受け入れて愛情を注いでくれる女性でした。
なぜ歌詞にパスタが登場するのかというと、それは主人公がパスタを家庭的だと思い込んでしまうほど、一般的な価値観とは異なる認識を持っているからだったのかもしれません。
もしかしたら、主人公のこれまでの人生は普通のものではなかったのかもしれません。
もしかしたら、幸せとは言えない人生だったのかもしれません。
しかし、「パスタ作ったお前」が現れたことで、「大貧民でマジ切れする自分に優しいお前」が現れたことで、主人公の闇に光が差し込んできたのではないでしょうか。
もしヒロインが肉じゃがを作っていた場合、リスナーも「家庭的な女がタイプの俺」に納得してしまうかもしれません。
パスタを家庭的だと思い込んでしまう主人公だからこそ、彼の特異な人間性が浮かび上がり、歌詞にも深みが増したのではないでしょうか。
ただのラブソングではない
湘南乃風の「純恋歌」は単なるラブソングではなく、そのことが理解されたと思います。
そのため、この曲はヒットし、人々に強い印象を与える楽曲となりました。
そして、「大親友の彼女の連れ おいしいパスタ作ったお前」というフレーズです。
このフレーズが印象的だった理由は、このフレーズから曲の主人公の人間性やキャラクターが浮かび上がるからではないでしょうか。
湘南乃風の楽曲は実は深層に広がりがあり、このように様々な解釈をする余地を残してくれることで、リスナーを楽しませてくれるのです。
この曲を考察していて、歌詞の深みを知ると同時に、おいしいパスタを作りたくなりました。