世代の代弁者としてティーンエイジャーの葛藤や不満をストレートに表現したザ・ブルーハーツ。
その後、甲本ヒロトと真島昌利が結成した「ザ・ハイロウズ」は、ザ・ブルーハーツの流れを踏襲しつつも、ひとつ上のジェネレーションとして視点の変化が伺えました。
ザ・ブルーハーツ後期の時点から既にその傾向にはありましたが、初期3作と呼ばれる『THE BLUE HEARTS』、『YOUNG AND PRETTY』、『TRAIN-TRAIN』では、そのフラストレーションへカウンターを行う”当事者”として歌っていたように思えます。
サウンドやビジュアル以上に、この点こそがザ・ブルーハーツを”パンクバンド”と解釈する際の最大のポイントかと思われますが、キャリアや年齢を重ねていく事で当然、メッセージの主な対象としていた若者と彼ら自身の年齢は乖離していきます。(つまり、後期の時点で彼らを”パンクバンド”と解釈するのは難しいように思えます。)
そんな理由から、変化と言っても代弁者を降りた訳でもなければセルアウトした訳でもない、視点の変化はごく当たり前の事。
特にその変化は歌詞に顕著で、一言で言えば”抽象度が増した”、或いは”大衆性が増した”と言えるかもしれません。
例えば「ザ・ハイロウズ」のデビューシングル「ミサイルマン」。
タイトルはもちろん、その歌詞もザ・ブルーハーツ時代にはあまり見られかったほどに抽象度が高く、”ストレートなメッセージソング”とは言い難いです。
特に甲本ヒロト詞曲の楽曲においては、いわゆる”日本語ロック”の系譜上に当てはまりそうな、ワードセンスや言葉遊びにウエイトが寄っていった印象を受けます。
これにより普遍性や大衆性は増大し、ポップアーティストとして「ザ・ハイロウズ」は、ザ・ブルーハーツ以上の立ち位置を確立した感があります。
そんな中、「ザ・ハイロウズ」の5thアルバム『Relaxin’ WITH THE HIGH-LOWS』からの先行シングルとなった「青春」は、原点回帰とも言える会心のティーンエイジャー賛歌として大ヒットソングとなりました。
この楽曲は、松本人志と中居正広がダブル主演を務めた2000年のTVドラマ『伝説の教師』の主題歌としても広く知られ、ドラマの舞台となる高校生活をそのまま切り取ったかのような具体的な言葉やシーンが並んでいます。
行き所のないエネルギーを持て余したハイティーン・ライフを、的確かつ詩的に表現した歌詞は、誰しもが通ったその時代の記憶を繊細に刺激し、強く琴線に触れます。
いくつか歌詞を抜粋して見ていきましょう。
音楽室のピアノでブギー ジェリー・リー スタイル
「火の玉ロック」で知られるジェリー・リー・ルイスの激しいピアノ演奏スタイルを模して演奏する学生の姿を想起させ、その溢れるエネルギーと行き場の無さが伝わります。
渡り廊下で先輩殴る 身に降る火の粉払っただけだ 下校の時にボコボコになる 6対1じゃ袋叩きだ
と、更にティーンならではと言える彷徨うエネルギーのやり場や、不条理さが歌われます。
リバウンドを取りに行くあの娘が 高く飛んでる時に
こう続ける事で、音楽室でジェリー・リー・ルイスを模す事や、ケンカにエネルギーを使う不毛さを、コントラストとして強調しているのは秀逸の一言です。
ここがこの曲一番のパンチラインのように感じます。
(”リバウンド”は重要ではなく、”あの娘が高く飛んでる”が重要という事ですね。)
混沌と混乱と狂熱が 俺と一緒に行く
ブリッジでのこの歌詞は、まさにそのものズバリなこの曲のメッセージを集約した言葉として響きます。
多くのリスナーが持つ学生時代の記憶として、”混沌・混乱・狂熱”というものは、心当たりのある代表的な感情と言えるでしょう。
いや、むしろこの3つの感情こそが、”青春”と言っても良いのではないでしょうか?
ラストは”青春”を語る上で、欠かすことができない最も象徴的な感情、”恋心”もしっかりと丁寧に歌われています。
校庭の隅 ヒメリンゴの実 もぎって齧る ひどく酸っぱい
夏の匂いと君の匂いが まじりあったらドキドキするぜ
もう、恋心以外の何物でもありませんよね。
「酸っぱい」と「夏の匂い」なんて、もはや恋心の季語みたいなものです。笑
締めくくりは、この恋心が頂点に達します。
時間が本当に もう本当に 止まればいいのにな 二人だけで 青空のベンチで 最高潮の時に
こんな感情も、ティーン時代の恋愛あるあると言えるのではないでしょうか。
そしてこんな風に思えるのは、幾ばくかの若い時代だけという方がほとんどかもしれません。(大人になると、いくら好きな相手と一緒でも、ベンチにいて最高に幸せとは思いにくいですしね。苦笑)
「時間が本当に もう本当に 止まればいいのにな」に至っては、ここまでストレートには書きづらい程にひねりのない一節ですが、だからこそ、その言葉のままの気持ちをかつて持っていた記憶が確実に呼び起されます。
「会いたくて 会いたくて 震える」の男性ヴァージョン的な心境にあたるとでも言いましょうか。笑
一曲という限られた短い時間の中に、青春時代の日常も激情も、誰しもが目に浮かぶように見事に描写した「青春」は、「ザ・ハイロウズ」を代表する名曲としてだけでなく、多くの人にとっての”青春アンセム”として、これからもきっと聴き継がれていくのでしょう。