ルッキズムに対する痛烈な批判と自身も経験したSNS攻撃に対しての回答
ちゃんみなのファッションは個性的である。
幅広い層に受け入れられるような普遍的なものではなく、流行や他言に惑わされず、ちゃんみな自身がしたいと思ったファッションを取り入れているというのがその原因なのだが、彼女がいかにしてその思考に至ったかの回答がこの「美人」には込められている。
そして、もう一つこの楽曲に込められたメッセージがある。
自身も経験した「SNSによる他者への攻撃」である。
特に容姿についての攻撃はちゃんみな自身を大きく傷つけ、「一度死んだ」と発言させるほど彼女に影響を及ぼした。
今回は彼女にとってのターニングポイントともなったこの「美人」を歌詞から考察してみたい。
「ブス」から「美人」まで経験したちゃんみな
美 美 美にしろ注意
あいつの信者は多い
己を知りなさい bitch
HD で魅えるのに
私もあなた様みたいになりたい
教えて教えて幸せですよね?
もしこのまま消えたら愛されるのなら
今すぐにでも綺麗に亡くなりたい
ちゃんみなはまだ幼い3歳からバレエ、ピアノ、ヴァイオリンといった表現活動を始めており、小学生の頃からはヒップホップに傾倒しダンスやラップといった現在に繋がる表現を開始している。
ちゃんみなが大きく注目されるきっかけの一つとなったのは彼女が高校生の頃に参加した『BAZOOKA!!! 高校生RAP選手権』である。
ちゃんみなはここで初めて不特定多数の観客を前に歌う事となり、その後すぐに盟友・めっしをゲストに迎えたシングル「未成年」を配信リリース。
iTunesヒップホップチャートで一位となり、現在に至るまで新世代ラッパーの1人として活動を続けている。
彼女にまず浴びせられたのは称賛でも喝采でもなく、容姿に対する攻撃であった。
今でこそ個性的なセンスで中高生のファッションリーダー的存在とも言えるちゃんみなだが、デビュー当時の彼女は「人から見られる」ということに対してあまりに無防備だった。
それだけ音楽のみに集中していた証でもあるのだが、無防備な彼女に対し匿名の大衆の攻撃は「もしこのまま消えたら愛されるのなら 今すぐにでも綺麗に亡くなりたい」という一節に現れているように彼女の心を大きく傷つけ、その後の活動に影響を与えた。
最初のヴァースでは狂気を感じさせる毒のあるトラックに乗せて彼女が体験した「傷」が歌われている。
また、彼女の歌唱の後ろで不気味に叫ばれているコーラスもこの楽曲が放つ波動に彩りを加えている。
テーマは「美の追求の下らなさ」
こんなはずないわよダヴィンチ
もう少しだけべっぴんに
コントラストも入れて頂戴
全世界を懲らしめたい
Look at this
Look at this
Look at this
Look at this 悲しいかも ey ey ey
もう少し肌に艶を頂戴
女盛り舐めたらヤイ
トイレに女神はおったんかい?
おったなら捕まえなさい
ルッキズムはジェンダーや民族・国籍・宗教といった差別問題と同様に人類が現在直面している一つの問題である。
容姿の優れた者はそうでない者に比べあらゆる面で優遇されている、というのはちゃんみなのような表現者・アーティストの分野に限らず、人間が生まれた時からつきまとう命題であり、人間の本能・本質的な思考でもある。
誰だって醜い容姿よりも美しく、格好良く、可愛くありたいと願う。
ちゃんみなのように人前で表現するアーティストならば容姿がそのまま評価につながると言ったケースも多いだろう。
整形や画像修正といった技術は芸能界には欠かすことの出来ない手法だが、ちゃんみなは自らが受けた傷を逆手に取り、普遍的な美しさではなく、自らがデザインする美を追求することを始めた。
そうすると、自らに対する中傷は収まったが、ちゃんみなはそこでも違和感を覚える。
「この人達は本質的にルッキズムから解放されたわけではなくて、ただ対象を変えただけなんじゃないか」
自分の他にも容姿に対する悩みを抱えている人達がまだいる。
そう感じたちゃんみなは自らの受けた傷と、容姿の事で思い悩んでいる多くの人のためにこの「美人」を作り上げた。
「実力派」の肩書は「見た目はダメ」の裏返し
ちゃんみな最近まじかわいい
私は忘れないあの嵐
あの時私はまだセブンティーン
あの時言ったよな
You can’t be beautiful
You can’t be famous
醜いブスが歌ってんじゃないよ
あの時狂った精神に才能が開花
味わった幸も不幸も一般じゃなかった
本物を君は知ってるかい?
知識と経験のエロス
まだ使いもんになってるかい?
女は皆正気じゃない
「私は忘れないあの嵐」はデビュー当時の容姿に対する攻撃を表している。
その時に受けた傷が彼女の活動における原動力の一つとなった事がこのヴァースでは歌われている。
「実力派ラッパー」と称賛されたがそれは即ち「見た目で勝負するタイプではない」という烙印でもあった。
ちゃんみなはデビュー当時からこの「美人」を発表するまで4年もの間、歯を食いしばり中傷に耐えてきた。
自分にしか出来ないファッション、メイク、振る舞い、そして歌。
いつの間に彼女を「ブス」「デブ」と呼ぶ声は収まり、「美人」「かっこいい」という声が大きくなっていた。
しかし彼女はその傷を忘れたわけではない。
また、自分の他にも容姿の事で悩み、時には死を選んでしまう事もあるこのルッキズムの被害者達に向けた彼女なりの回答がこの「美人」最大のテーマとなっている。
自分だけの価値観、自分だけの美しさ、それがちゃんみなにとっての「美」
Can you hear me Mina are you the beauty
Say July you are the 真 fxxking beauty
予想違い驚きなさい
磨いたらダイヤ美しい
悲観的いや美学的
磨いたらダイヤ美しい
生きなさい今魅せなさい
あなたこそダイヤ美しい
(前例がないのは怖いかい)
(ならお手本になりなさい)
(怖がったままでどうすんだい?)
(あの彼女を助けなさい)
I’m fxxking woman
And I’m fxxking beautiful
God here I am
We’re fxxking women
And we’re fxxking beautiful
デビュー当時のちゃんみなは「原石」であった。
メイクもファッションも知らず、ただ歌うことでステージという戦場に立った彼女に容赦なく浴びせられる嵐のような中傷。
その傷の一つ一つが彼女を原石からダイヤモンドへと磨き上げ、今日のちゃんみなを作り上げたのだろう。
その生き方そのものが彼女の美学である。
彼女は他の大勢の容姿に悩む人々、とくに女性に向けてこの「美人」を書き上げた。
例えば高い鼻、例えば膨らんだ涙袋といった他人の価値観から解放され、自分だけの美しさを追求しなさいというのがちゃんみなから他の女性に向けてのメッセージとなる。
ルッキズムはちゃんみなにとって大きく高い壁の一つであった。
それを乗り越えた彼女は今作のリリース後、一度「音楽制作」に対するエネルギーを無くしてしまう。
それほどまでにこの「美人」に込められたメッセージはちゃんみなにとってデビュー以来長く抱えていた重大なテーマの一つであったのだろうと推察する。
ブランクの後にリリースされたのが次作のアルバム「ハレンチ」であり、ここでもルッキズムにおける「美人」と同様、自分にとっての音楽とは一体何なのかという彼女の実体験が反映されたメッセージ性のある作品となっている。
彼女の作品には常に彼女自身のパーソナルな体験とそれに対する回答がメッセージとして込められていて、まさに身を削って歌い続ける稀有な歌手の一人と呼べるちゃんみな。
彼女にとって一つのターニングポイントともなったこの「美人」、是非衝撃的なPVと合わせてご覧頂きたい。
彼女のメッセージがより強く、より正確に伝わるだろう。