「音色」とは、恋人であり、音楽であり、その両方でもある
KICK THE CAN CREWの活動休止後、インディーズでシングル「希望の炎」をリリースし、続けざまにシングル「音色」でソロでのメジャーデビューを果たしたKREVA(クレバ)。
インタビューによると楽曲として完成したのは「音色」の方が先だったという事で、KREVAのソロキャリアにとってスタートラインとも言える楽曲だ。
「希望の炎」ではソロデビューに向けての意気込みを自分自身が奮い立つような、聴いた人が奮い立つようなメッセージ性の強いものに仕上げた作品となっていたが、「音色」ではシンプルに音楽に対する愛情を吐露した世界が展開されている。
楽曲は全編を通してKREVAがKICK THE CAN CREW時代から取り入れてきた「メロディアスなフロウ」で構成されており、ヒップホップの進化系とも呼べるそのサウンドはヒップホップとも相性の良いR&Bを感じさせるものとなっている。
「音色」とは人名のようでもあり、勿論そのままの意味の「音楽」という意味でもある。
今回は「音色」の世界観を歌詞から紐解いてみよう。
大好きな音楽を恋人に例えて歌うKREVA流ラブソング
愛してんぜ 音色
はまっちまったよ まるで迷路
何をしてみても無駄な抵抗
お前がいつでも俺をKO
影響与えてくれよ
いつだって刺激的でいて 俺が死ぬまで
間違いない 間違いない
今すぐに交わりたい MY BABY
永遠を信じたくなる
お前の声聴きゃ心が休まる
ときに揺さぶる 激しく
手を伸ばしてもすり抜け 投げKISS
無理でもいいんだ教えて 全部
感じていたい耳元で 年中
AND YOU DON’T STOP
俺だけのモンになんないってのはわかってんだけども…
プロデューサーとして、ヒップホップのみならずあらゆる音楽を取り入れたサウンドを展開するKREVA。
ラッパーであり、DJであり、トラックメイカーでもあるKREVAの楽曲制作はトラックメイクから始まる。
ヒップホップ、ロック、ポップス、ファンク、テクノ、ジャズ、レゲエ、クラシック、ジャンルを挙げれば枚挙に暇がないが、常にアンテナを張り、埋もれていたものを掘り起こしたり、最新のテクノロジーや表現を貪欲に取り入れるその姿勢は「音楽に対する愛情」あってのものだろう。
リリックにも如実に「音楽に対する愛情」が現れている。
自分がクリエイトする音楽は勿論、他のアーティストが作った音楽に対しても良いものであれば素直に受け入れる。
時にはバラードで心を休める、時にはダンスミュージックで心も体も踊らせる。
最初のヴァースはそんな「音楽に対する愛情」をこれでもかと言うほど詰め込んだリリックで構成されている。
「俺だけのモンになんないってのはわかってんだけども…」というのは、音楽が自分だけのもの、独りよがりのものではなく、みんなに聴いて欲しい、みんなに楽しんで欲しいという、いち音楽好きの素直な気持ちであると言えるだろう。
まるで恋人にするように、音楽に対する愛を告白する
愛してんぜ 音色 YOU’RE MY BABY
誰よりも ずっと お前でいて ALL RIGHT?
愛してんぜ 音色 YOU’RE MY BABY
二人 深い世界でハイになる
サビではシンプルな押韻を展開しつつ、さながら楽曲制作にのめり込んで自分と音楽だけの世界に没頭する様子が描かれている。
アーティストにとって自分が作った楽曲は子供のようなもの、と言われることがあるが、KREVAにとって音楽は恋人で、「時に思いがけずコントロール不能になるほどのマジックを見せてくれる」というニュアンスを感じさせるリリックとなっている。
喜怒哀楽という言葉では足りないほど、恋人との関係においては様々な感情が生まれるが、KREVAにとって音楽もそういった「マジック」を見せてくれるものなのだろう。
常に音楽と共に生きる日々
愛してんぜ 音色
毎日 毎晩 お前とデート
あったかく包む まるで毛糸
次々に湧き出る イメージ映像
いつでも どんなシチュエーションにも
すぐに馴染んでいくでしょ? 不思議
お前みたいなヤツは全然いない
変幻自在 MY BABY
まるで円盤に乗った宇宙人
気がつきゃ夢中になって
お前にだけ悩み事も 固い事も
話しておこう って思う
完全にお前に依存症
日本語 英語 何語でもいい 聴かして
愛のメモリー 満たして
KREVAに限らず、世の多くの音楽好きは可能な限り「音楽」をそばに置いて生きている。
もちろん趣味嗜好やシチュエーションによっても変わってくるが、朝起きれば爽やかな曲を聴き、(許されるのであれば)仕事中や勉強中に集中力を高める楽曲を聴き、家に帰って休んでいる時には一日の疲れを開放するようなサウンドに身を委ねる。
時には眠りに落ちるその瞬間まで好きな音楽を聴く方も多いだろう。
気分を安らげ、時には高揚させ、様々な形でエネルギーを与えてくれる音楽に対する感謝や信頼といったものがこの2番のヴァースでは歌われている。
誰にも話したことのない悩みや弱みも、気恥ずかしくて表に出したことのないマジな悩みも決意も、音楽の前でなら素直に吐き出せる。
KREVAにとっても、私たちリスナーにとっても、音楽とは「自分を100%さらけ出せるかけがえのない場所」であるのかもしれない。
いつだって音楽は私たちを癒やし、勇気づけ、感動させ、奮い立てせてくれる最も身近な要素のひとつなのだから。
今も変わらぬ音楽への愛情、興味
愛してんぜ 音色 YOU’RE MY BABY
誰よりも ずっと お前でいて ALL RIGHT?
愛してんぜ 音色 YOU’RE MY BABY
二人 深い世界で愛し合う
クリエイターであり、リスナーであり、プレイヤーでもあるKREVAにとって、音楽には私たち一般的なリスナーよりも沢山の様々な感情を抱いていると思う。
音楽を聴き、音楽を作り、そして演奏する。
KICK THE CAN CREWの活動と並行してソロ作品の制作を同時進行で進めるというのは並大抵の労力ではなかったはずだ。
それでも音楽に対する想いは変わらず、それどころか増々強くなっていく。
ヒップホップとの出会い、そして1995年のCUEZEROとのユニット「BY PHAR THE DOPEST」結成から現在(2021年)に至るまで30年近くもの長い間、KREVAは立ち止まること無く音楽を作り続け、そしてきっと今でも沢山の音楽に囲まれて生きているのだと思う。
相思相愛、KREVAと音楽との関係性を言葉で表現するならばそんな言葉がピッタリかもしれない。
そんな想いを表現した「音色」、是非ヘッズ以外の音楽好きにも聴いていただきたい一曲だ。