ザ・クロマニヨンズの2008年リリースの3rdアルバム『FIRE AGE』。
コア・ファンを多く抱え、多数のアルバムを発表してきている甲本ヒロト&真島昌利による作品群の中では、率直に言ってしまえば決して評価の高い作品とは言えないかもしれません。
そんな『FIRE AGE』ではありますが、シングルカットもされ、オープニングトラックとして収録された「エイトビート」は聴き逃せない佳曲です。
甲本ヒロト作詞作曲による本楽曲は、本人の原点でもあり、今尚支え続けているパンクロックやロックンロールに対し、分かりやすく正面から向き合った一曲と言えます。
そして、特にザ・ブルーハーツ初期からのファンにとっては、それこそが彼に強く求める物でもあり、”聴き逃せない”と書いたポイントのひとつでもあります。
まずこの「エイトビート」というタイトルがそのものズバリではあるのですが、エイトビートそのものについても簡単に触れておきます。
楽曲を構成するリズム(ビート)が8分音符で作られている事を意味しますが、ポップ・ミュージックの世界では、ロックンロールの象徴的なビートとして認識されています。
無論、ヒロトがインタビュー等で影響を公言しているバンドの多くでエイトビート楽曲は見られますし、自身のバンドでも(おそらく意識的に)多用、または活用しているように感じます。
ヒロトに限らず、ロックファンにとってエイトビートというものは、ロックンロールの類義語、果ては同義語とさえ言っても良いほどに、ロック音楽による興奮を呼び起こすリズムなわけで、「エイトビート」というタイトルを見た時点で、一定のロック・リテラシーのあるファンであれば、聴く以前に「名曲かも?」と期待の膨らむタイトルと言っても言い過ぎではないでしょう。
では、そんな「エイトビート」の歌詞を見ていきましょう。
ああ 強く閉じて ああ ふさいでいても
まず前提として、本人を含め、多くのロックファンのロックンロールの原体験は、ティーンエイジャー時代であり、おそらくヒロトも「ロックンロールやパンクロックは若者の為の音楽」という理解・解釈を持っているかと思います。
その上で、思春期特有の理由もやり場も分からない閉塞感や息苦しさ、不安をこの一節で描写しています。
音速ジェット つきささる リズム
ここはまさにロックンロール原体験のメタファーでしょう。
ヒロトは、ロックンロールやパンクロックと初めて出会った時の衝撃をインタビュー等で度々語っていますが、よく言われる「雷に打たれたような衝撃」、そのくらいのインパクトをここでは”音速ジェット つきささる リズム”と表現しています。
遠く はなれている ずっと 昔のうた 泣いているよ 笑ってる きょうも
この楽曲が作られた2008年の時点でも既に、ロックはユースカルチャーやポップ・ミュージックの主役からは退いていた背景があります。(日本においては、ガラパゴス的に”邦ロック”という言葉と共にロック音楽の延命が図られていますが。)
理想で言えば、ティーンエイジャーであれば、リアルタイムに鳴らされる音楽から「雷に打たれたような衝撃」を受けるのが健全なように思えたりもしますが、ここではおそらく、パンクロック以前、つまり70年代後半以前の音楽を指しているように推測できます。
そしてその音楽は、喜怒哀楽と様々な表情を見せ、自身の様々な感情にいつでも寄り添ってくれます。
ただ生きる 生きてやる 地上で眠り目を覚ます エイトビート エイトビート
大人になって振り返れば些細な悩みや不安でも、多感な思春期は重くそれがのしかかるもので、ロックンロールやエイトビートは、それを吹き飛ばすだけの原始的な生々しさや荒々しさを持っています。
ヒロト本人がロックンロールに救われた張本人でもあり、当時の自分と同じような気持ちの人に対して「ロックンロールがあれば大丈夫。」というエールのようにも受け取れます。
ああ ゆくえ知れずの ああ おたずね者が どこかで モールス信号 たたく
ここはふた通りの解釈が可能かというところです。
一つは、自身を”ゆくえ知れずのおたずね者”として、”モールス信号”を自分たちの鳴らすロックンロールのメタファーにしているという解釈。
もう一つは、思い悩み人知れず助けを求めて足掻く様の描写というものですが、思春期の自分、またはその世代の心情の代弁という意味では、”おたずね者”がストンとは腑に落ちないので、前者で解釈する方が良さそうですね。
ただ生きる 生きてやる 呼吸をとめてなるものか エイトビート エイトビート
この一節は、所信表明・決意表明という程に、力強いヒロトのバンドに対する意思表示でしょう。
ロックンロール・バンドとしての活動を”呼吸”と呼ぶほどのピュアさがヒロトの魅力でもあり、ザ・クロマニヨンズではその事をよりストレートに表現する傾向を感じますが、特にそれが顕著な一曲として、やはり「エイトビート」は聴き逃せない楽曲です。