ずとまよ『サターン』歌詞考察|惑星に託した遠距離恋愛の心模様と感情の変遷

『サターン』の歌詞に込められた遠距離恋愛の切なさとは?

『サターン』は、ずっと真夜中でいいのに。の楽曲の中でも特に感情表現の強い作品のひとつです。歌詞の随所に、時間と空間を隔てられた2人の関係が描かれており、物理的な距離だけでなく、心の距離の広がりが丁寧に表現されています。

例えば、「ひとつ星を越えて」や「受信できない距離感」という言葉は、ただの遠距離ではない、すれ違い続ける心のもどかしさを象徴しています。連絡が途絶えがちになる不安、相手の表情が見えないことによる誤解や孤独感など、現代のコミュニケーション課題を鋭く突いているのです。

恋愛において「距離」は避けられないテーマですが、『サターン』はそれを比喩と感情で織り成し、聴く者に「わかる」と思わせる説得力を持っています。


惑星の比喩が示す登場人物の関係性を読み解く

『サターン』の大きな特徴は、登場する惑星たちがそれぞれ感情や人物を象徴している点です。「サターン(土星)」というタイトルそのものが、他の惑星との位置関係を考える上で非常に象徴的です。

地球は私たちの生活の場であり、もっとも近い存在のように思えます。一方、サターンは遠く冷たい印象のある惑星です。歌詞中で主人公がどの天体を基準に「距離」を語っているかによって、相手との関係性や心情が浮かび上がってきます。

また、「木星」や「太陽」が登場することで、さらにその関係性が複雑に展開されます。相手が「太陽」のように輝かしい存在でありながらも、近づけば焼かれてしまうような危うさも感じられます。このように、惑星の特性を感情のメタファーとして活用する発想は、ずとまよらしい独創性です。


サビの歌詞変化が示す感情の変遷

『サターン』のサビ部分では、「木星」「太陽」というキーワードが登場し、物語の感情的なクライマックスを彩っています。興味深いのは、1回目のサビと2回目以降のサビで登場する天体が変化している点です。

最初のサビでは「木星のそばで泣かないで」と歌われているのに対し、後半では「太陽のそばで泣かないで」と変化します。この変化には、相手への心の距離がさらに広がってしまったことや、相手の存在が次第に遠ざかり手の届かないものになってしまったことが暗示されています。

天体の変化を通して、主人公の心情が移り変わっていく様子は、リスナーにとっても感情移入しやすく、物語性を持って歌詞が展開しているのが分かります。


ACAねの高校時代の感性が光る歌詞表現

『サターン』は、ずとまよのボーカル・ACAねが高校生の頃に作ったとされており、その若さでここまで繊細な感情表現と比喩を織り交ぜた作品を作り上げたことに多くのファンが驚きを示しています。

10代の頃特有の「未熟さ」は逆に、感情をそのままぶつけるストレートさや、現実とのギャップに悩むリアルな苦しみを描き出す力に転化されているように感じます。

自分の感情を表現することが難しい年頃に、言葉や音で自分を語るという行為は、まさにアーティストの始まりであり、ACAねの才能を示す重要な証でもあるのです。


『サターン』と他の楽曲との関連性を探る

『サターン』は単独で聴いても完成度の高い楽曲ですが、ずとまよの他の楽曲と並べて聴くことで新たな発見があると語るファンも多くいます。特に、『ハゼ馳せる果てまで』や『勘冴えて悔しいわ』などとは、共通するテーマや言葉選びが見受けられます。

たとえば、どちらの楽曲にも「届かない思い」「時間の隔たり」「会えないもどかしさ」といったキーワードが存在しており、曲を越えて繰り返されるモチーフが、ずとまよの世界観全体をより深く感じさせる要素となっています。

『サターン』はその世界観の一部として、多くの楽曲と有機的につながっているとも言え、リスナーの解釈によってその繋がり方も変わるのが面白い点です。