「忘れないように」の歌詞に込められたテーマとは?
「忘れないように」というタイトルから連想される通り、この楽曲には“記憶”や“思い出”にまつわるメッセージが色濃く込められています。歌詞の随所には、「思い出を大切にしたい」という感情と、「何かを失うことへの恐れ」が共存しています。
例えば、「久しぶりの駅前も ビルが立ち並ぶ」という一節は、時間の流れとともに変化してしまった風景に対する郷愁を感じさせます。これは、私たちが日常生活の中でふと感じる「変わってしまったもの」と向き合う瞬間を表現しているといえるでしょう。
また、「浜木綿の白さ 汚れなく 汚れないように」という表現は、記憶の純粋さや、それを保とうとする意志を象徴しています。これは“忘れないようにする”という意識の核心を突いた、非常に詩的な言い回しです。
岸田繁が語る「忘れないように」の制作背景
この曲は実は、くるりがメジャーデビューする以前から存在していたもので、ライブで披露されていた初期の楽曲を再構築したものです。岸田繁自身が「原点回帰」とも語っており、過去の自分たちが作り上げた音楽と、現在の技術や感性を融合させた作品として、非常に意味のある再発表となっています。
サウンド面では、90年代のオルタナティヴ・ロックの影響を感じさせるギターのリフや、モータウン風のビートが印象的であり、くるりの多彩な音楽性が反映されています。ノスタルジックでありながらも、現代のリスナーにも響くサウンド作りは、くるりならではのセンスと言えるでしょう。
歌詞に登場する象徴的なフレーズの解釈
「忘れないように」の歌詞には、いくつかの象徴的なフレーズがちりばめられており、それぞれが記憶や感情を喚起する装置として機能しています。
「久しぶりの駅前も ビルが立ち並ぶ」は、故郷やかつての大切な場所に戻ってきた時の、ちょっとした違和感や寂しさを描いています。変化してしまった場所は、まるで自分の記憶を裏切るかのように感じられ、それが一層“忘れたくない”という思いを強くします。
また、「浜木綿の白さ」という自然のイメージが持ち込まれることで、記憶が単なる過去の出来事ではなく、感情や景色と結びついていることが伝わってきます。この花の白さを「汚れなく、汚れないように」と願う姿勢には、忘れられたくない、色あせたくないという、儚くも強い願いが込められています。
「忘れないように」が持つ社会的なメッセージ
この楽曲は、2018年に開催された「ツール・ド・東北」という自転車イベントのテーマソングとしても使用されました。このイベントは、東日本大震災の被災地の復興支援と、被災の記憶を風化させないことを目的に開催されています。
その文脈で「忘れないように」が使用されたことにより、楽曲には個人的な記憶だけでなく、社会的な記憶を語り継ぐという使命も与えられました。「忘れないように」という言葉は、震災を体験した人々の思い、そしてそれを受け止めた全国の人々の意識とリンクします。
くるりの音楽が個人の感情に寄り添うだけでなく、社会全体に向けてのメッセージとなり得ることを示した象徴的な事例ともいえるでしょう。
「忘れないように」が示すくるりの音楽的進化
この曲のもう一つの魅力は、くるりの音楽的進化を象徴するような構成とアレンジにあります。過去の作品をそのまま再演するのではなく、現代的なアレンジを加えることで、時代を超えて共感できる音楽へと昇華しています。
その手法は、まるで過去と現在の自分たちが対話しているようにも感じられます。岸田繁が持つ繊細な感性と、バンド全体の成熟が融合し、「懐かしさ」と「新しさ」が絶妙なバランスで共存しているのです。
「忘れないように」は、くるりが音楽家としてだけでなく、人間としても成熟してきたことを感じさせる作品であり、今後の活動への期待も高まる一曲です。
まとめ
「忘れないように」は、個人の記憶や情景に寄り添いつつ、社会的な出来事に対する記憶の継承も意識させる、くるりの代表的な楽曲のひとつです。歌詞に込められた深い意味と、その背景にある歴史や社会的文脈、そして音楽的な進化が見事に調和し、多くのリスナーの心に響く作品となっています。