BUMP OF CHICKEN(バンプオブチキン)の曲『スノースマイル』は、多くの人が恋人の笑顔を想起するかもしれませんが、実は公式の恋愛ソングではありません。
では、この曲にはどのようなメッセージが込められているのでしょうか。
暖かくもどこか切ない歌詞
BUMP OF CHICKENの「スノースマイル」は、2002年12月18日にリリースされた5枚目のシングルです。
タイトルに「スノー」が含まれており、まさに冬にぴったりの曲です。
寒い季節に恋人と肩を寄せ合って歩く姿を連想させるタイトルですが、この曲は公式のラブソングではないようです。
「スノースマイル」というタイトルにはどんな意味が込められているのか気になりますね。
作詞作曲はボーカルの藤原基央が手がけています。
静かで優しいメロディと、暖かくもどこか切ない歌詞が特徴です。
「スノースマイル」が表現する世界に注目しながら、歌詞に込められた感情を考察していきましょう。
些細な幸せを味わうよう
冬が寒くって 本当に良かった
君の冷えた左手を
僕の右ポケットに お招きする為の
この上ない程の 理由になるから
多くの人が抱く願いの一つは、好きな人と手を繋ぎたいというものでしょう。
付き合いたての恋人には気恥ずかしく、片思いならば叶わぬ願いでもあります。
些細な願望を叶えるために、冬の寒さが味方になるとしたら、それは本当にロマンチックなことですね。
「雪が降ればいい」と 口を尖らせた
思い通りにはいかないさ
落ち葉を蹴飛ばすなよ 今にまた転ぶぞ
何で怒ってるのに 楽しそうなの?
雪が降らないことに不満を漏らす彼女は、どこか未熟な部分を感じさせます。
落ち葉を蹴って楽しげに振る舞う様子や、心配そうに見守る相手の存在からは、幼さがにじみ出ています。
雪が降らないことに対する怒りと同時に、どこか楽しそうな表情を見せる彼女。
相反する感情を同時に表現する彼女の姿は、その複雑さが魅力的です。
子供っぽい彼女と、それを見守る相手の関係は、姉弟のようでもありますが、冒頭の歌詞が示すように、それは恋愛のものです。
まだキレイなままの 雪の絨毯に
二人で刻む 足跡の平行線
こんな夢物語 叶わなくたって
笑顔はこぼれてくる
雪の無い道に
雪の上には誰の足跡もなく、ただ二人で歩く。
並んだ足跡が二人の愛を表現しているようにも感じられますが、それは夢の中だけのこと。
現実では雪は降らず、好きな人と一緒に歩く足跡を残すことはできません。
「雪」が描く理想の世界には至らなくとも、現実の道を好きな人と笑いながら歩くことはできる。
そんな些細な幸せを味わうような歌詞が、心に残ります。
いつも大切な「君」の笑顔がそこにある
二人で歩くには 少しコツが要る
君の歩幅は狭い
出来るだけ時間をかけて 景色を見ておくよ
振り返る君の居る景色を
藤原基央の才能が光るのは、赤の他人が一緒に歩く難しさを歩幅で表現したところです。
「僕」よりも歩幅の狭い「君」に合わせて歩くぎこちない様子が、不器用で未熟な恋心を想起させます。
一人で歩くよりも時間はかかるけれど、その時間さえも愛おしいでしょう。
できるだけ長い時間一緒に過ごせるように、「僕」を振り返る「君」の姿を覚えておきたくて、ゆっくりと歩く。
雪景色を歩けない「僕」は、せめて雪のない道で、大切な「君」との時間を楽しむことにしました。
実を結ばない恋の切なさが繊細に表現されています。
まだ乾いたままの 空のカーテンに
二人で鳴らす 足音のオーケストラ
ほら夢物語叶う前だって
笑顔は君がくれる
そんなの わかってる
空には雪が降り始める気配もなく、固い地面を歩く二人。
夢に描いた恋人にはなれなくても、「君」の笑顔はずっと「僕」の心の支えだったのではないでしょうか。
好きな人が微笑んでくれる。
それだけで幸せなはずなのに、それ以上を求めてしまう。
恋心を捨てれば「僕」は幸せなままで、胸の痛みを知ることもなく過ごせるでしょう。
それでも今以上の関係を求めてしまう。
芽生えた恋心は、簡単には消せないものです。
まだキレイなままの 雪の絨毯に
二人で刻む 足跡の平行線
そうさ夢物語 願わなくたって
笑顔は教えてくれた
僕の行く道を
雪の上に二人だけの足跡を残すことは、あくまで「夢の中」での話でした。
この恋は、「僕」にとって初めからただの夢の中の出来事だったのかもしれません。
思いがけず実現するかもしれないと期待していたものが、ただの夢の中の物語であることに気づいた瞬間、恋の楽しみは悲しみに変わります。
それでもなお「君」を愛する気持ちは変わらないからこそ、そうであると認めることを選んだのでしょう。
恋が叶うかどうかにかかわらず、いつも大切な「君」の笑顔がそこにあるのです。
叶わぬ恋の記憶
君と出会えて 本当に良かった
同じ季節が巡る
僕の右ポケットに しまってた思い出は
やっぱりしまって歩くよ
君の居ない道を
「僕」は冬の寒さに感謝しながらも、「君」との手を繋げることをあきらめ、甘くて切ないけれど大切な思い出を心にしまいこむことに決めました。
小さな恋は結局叶うことはありませんでしたが、「僕」は出会えたことに感謝し、幸せだと思います。
「君」が文句を言っていた雪の日々は遠く、「僕」の隣にはもういませんが、その日々の記憶を胸に抱いて生きていくことができます。
『スノースマイル』は、雪の中で微笑む恋人ではなく、雪のない現実世界で微笑む、手の届かない存在を意味しているのかもしれません。
「スノースマイル」を見られなくても、いつでも隣で微笑んでくれる好きな人の「スマイル」は見られました。
その小さな幸せがあるから、夢を諦めて現実世界を前向きに生きることができるのです。
どれだけ待っても雪が降らない空と、実現しない夢。
右ポケットにだけ存在する、記憶の中だけの恋。
『スノースマイル』は、雪の中で微笑む恋人を描いたラブソングではなく、叶わぬ恋の記憶を描いた切ない歌です。
しかし、手の届かなかったものほど、時を経ても心の奥底に残ります。
その恋の曲を『スノースマイル』と名付けたところに、バンプの個性を感じます。
ほろ苦いエピソードを冬の旋律に乗せて詩的に描いた『スノースマイル』は、人恋しくなる冬にこそ聴きたい楽曲です。
枯れ葉の絨毯と真っ白な雪原。
歌の世界と同じように、二つの異なる世界を描き出したMVの世界観を、ぜひ映像で楽しんでください。
