「楽園」という曲は、THE YELLOW MONKEY(ザ・イエローモンキー)が絶頂期にリリースした作品です。
この楽曲は前向きで元気を与えてくれるため、大変人気がありますが、実は歌詞のテーマは真逆なものなんです!
歌詞を読み解くと、「楽園」の魅力にどっぷりとハマってしまうことでしょう。
隠された意味
1996年11月に発表された11番目のシングル「楽園」は、大ブレイクした「JAM/Tactics」「SPARK」に続く作品として注目を集めました。
バンドはなかなか成功を収められなかったため、一度ポップな方向性を模索しましたが、後にロックへの回帰を果たしました。
この曲は20年以上前に発表されましたが、多くの人に「元気が出る」「励ましてくれる」と評される元気な曲であり、人気は衰えません。
しかし、歌詞の一見ポジティブな内容の裏には、実は隠された意味があるのです。
絶望や暗い面すらも受け入れる姿勢
初期のTHE YELLOW MONKEYのファンであれば、楽曲の裏に潜む暗示や複雑な感情などを感じ取ることができるでしょう。
さて、この楽曲に隠されたテーマは実は「ドラッグ」なのです。
しかし、そのドラッグとは一体どのようなものなのか、明るく前向きな内容の中にどのようにして溶け込んでいるのか、一緒に探ってみましょう。
メンソールの煙草持って
小さな荷物で
楽園に行こう
楽園に行こう
大きな船で
僕らは大事な時間を意味もなく削ってた
“なあなあ”のナイフで
さて、本題に入りましょう。
“楽園”という言葉からはどのような場所が浮かびますか?
南国?無人島?それとも理想的な場所?
実は、この言葉は矛盾だらけなのです。
メンソールの煙草と小さな荷物で行ける”楽園”。
お金さえあればどうにかなるかもしれませんが、大型船で行くような場所にしては荷物が少なすぎる。
何かと適当に時間を過ごしていたから、ここはいっちょ楽園に行ってみない?…。
やはり、私たちが思い描く”楽園”とはかなり異なるようです。
苦しみも憎しみも忘れてしまおうよ
スプーン一杯分の幸せをわかちあおう
君が思うほど僕は弱い男じゃないぜ
愛と勇気と絶望をこの両手いっぱいに
そして、ここで重要なキーワードが登場します。
それは「スプーン一杯分の幸せ」です。
スプーンで量るという表現から、おそらく薬を飲むことではないでしょう。
「スプーン一杯分の幸せ」という言葉は、ドラッグとの関連性を示唆しますが、歌詞の中ではやや微妙な使い方です。
ドラッグを使用する男性が強さを示すとは考えにくいでしょうが…
吉井和哉の歌詞には、精神的な旅路を通じて愛や勇気、絶望や暗い面すらも受け入れる姿勢が反映されています。
楽園へのトリップ
赤い夕日を浴びて黒い海を渡ろう
そして遥かなあの自由な聖地へ
ひとりきりもいいだろうふたりだけもいいだろう
猫もつれて行こう好きにやればいい
いつか僕らも大人になり老けてゆく
MAKE YOU FREE 永久に碧く yeah
赤い夕日と黒い海。
サイケデリックな風景が浮かびます。
そのサイケデリックな幻覚の果てには自由が待っている。
単独か複数か、ここの歌詞を全てひらがなで表現しており、意識的にふわふわしているように感じます。
猫を連れて行くのはかわいそうですが、必要のない言葉が楽曲に生々しさをもたらしています。
そして、どんな人間でも逃れられない老いと死。
だとすれば、自由に生きよう!
この辺りのフレーズから、前向きな気持ちが伝わってきますね。
「永遠に碧く」という表現は、通常地球の青さを思い起こさせますが、「大人」や「年をとる」といった言葉を考えると、人間的な「若さ」も含意されているかもしれません。
最初に登場した「僕は弱い男じゃないぜ」というフレーズもあります。
「ドラッグを使う=強さ」と解釈されることも、未熟さや人間らしさからくる表現かもしれません。
その露骨な格好悪さゆえに、より現実味を感じることができます。
THE YELLOW MONKEYの楽曲には、少年性が見え隠れするものが多いのです。
ボリュームを上げて命の鼓動が
動脈のハイウェイを静かに駆けぬけてゆく
Ah…
Ah…
Ah…
Ah…
Ah…
Ah…
ドラッグを使用すると、脈拍が速くなるとされています。
その鼓動を全身で感じることで、生きている実感を得ることができると言われています。
“動脈のハイウェイ”というフレーズがあります。
初めは歌詞に”静脈”と書かれていたそうですが、リリース前に変更されたとのことです。
確かに、直接的すぎる印象があるかもしれませんが、”スプーン一杯分の幸せ”は許可されたというのは興味深いですね。
制作者にとって、バランスを取るのは難しい仕事でしょう。
そして、Ah…
楽園へのトリップが始まります…
Ah…
ずっと青く、碧いまま
君が望むのならば淫らな夢もいいだろう
掃いて捨てるほど愛の歌はある
過去は消えないだろう未来もうたがうだろう
それじゃ悲しいだろうやるせないだろう
THE YELLOW MONKEYやソングライターの吉井和哉にとって、エロスも重要な要素です。
ドラッグとエロスはしばしば関連付けられますが、THE YELLOW MONKEYならばエロスが取り入れられる可能性もあったでしょう。
では、締めくくりの歌詞を見てみましょう。
まだまだ青い私たち。
愛を知ってしまったなら、淫らな連想も不可避であり、悪ではない。
そして、これまでの経験は永遠に消えることはありません。
過去の絶望や苦しみ、憎しみを抱えながら、未来に対する不安が消えることはありません。
そういった暗い側面ばかりを気にしていたら、人生はもったいないと思いませんか?
いつも僕らは汚されて目覚めてゆく
MAKE YOU FREE 永久に碧く
私たちの内面や精神力は、どのように発展してきたでしょうか。
何もなく今に至る人は、ほとんどいないと思います。
克服しがたい困難を乗り越え、辛い経験を経てきた人が多いのではないでしょうか?
そういった経験が、後になって「乗り越える力、脱出する力」となり得る良い経験だと感じることもあるでしょう。
たとえば、「なあなあのナイフ」で削り取った時間にも意味があったかもしれません。
時には他人を傷つけ、自分も傷つけられることがあります。
それでも、その汚れた経験を通じて学び、成長し、新たな自己に目覚めることができるのです。
これは若い時だけでなく、年を重ねても同じです。
私たちの精神は、ずっと青く、碧いままなのです。
アルバム『SICKS』
「楽園」は6枚目のアルバム『SICKS』のリリースを控え、先行で公開された作品でもあります。
このアルバムは、「楽園」だけでなく、『SICKS』全体が過去の精神にリンクした雰囲気でまとめられています。
内面の暗い側面に焦点を当てた内容もあり、ポップなTHE YELLOW MONKEYのファンには新鮮な驚きをもたらすかもしれませんが、古典的な曲や再結成後にも披露されている楽曲がたくさん収録されています。
シングル曲は「楽園」のみですが、「天国旅行」や「HOTEL宇宙船」など、多彩な楽曲が収められており、THE YELLOW MONKEYの真髄を伝えるには欠かせないアルバムと言えるでしょう。
まとめ
THE YELLOW MONKEYは長いキャリアを積んできたバンドであり、吉井和哉はその中心的存在です。
彼らは自らの弱点をさらけ出し、時には不器用な姿も見せることで、格好良さを演出しています。
彼らの楽曲はしばしば二面性を持ちますが、その中でも「楽園」は特に世間一般の解釈との隔たりが大きいでしょう。
曲をただ聴くだけでも良いですが、彼らの言葉選びや表現には興味深いものが多くあります。
この機会に、あなた独自の解釈を見つけてみるのも良いかもしれません。
これであなたもTHE YELLOW MONKEYの魅力に取り憑かれることでしょう。