【逢いたくていま/MISIA】歌詞の意味を考察、解釈する。

2009年にリリースされたMISIA(ミーシャ)の23枚目のシングル『逢いたくていま』。

時代劇『JIN-仁-』の主題歌として注目を集めたこの曲は、医師が幕末の江戸時代にタイムスリップする物語を描いています。

歌詞の意味を通してその背景やテーマを探ってみましょう。

橘咲が南方先生に優しく対話を始めるかのよう

MISIAの「逢いたくていま」は、2009年にTBS系列で放送され、高い視聴率を獲得したドラマ『JIN-仁-』のテーマソングとして制作されたバラードです。

『JIN-仁-』は、ある日1人の患者が入院先から姿を消したことを契機に、脳外科医の南方仁が幕末の江戸時代にタイムスリップする物語です。

幕末の時代において、坂本龍馬らとの交流を通じて、南方仁と彼の仲間たちは人々の命を救うために奔走します。

この物語は国内外で大きな感動を呼び、MISIAが歌う「逢いたくていま」もその一翼を担いました。

このバラードは、南方仁を支える江戸時代の女性、橘咲の思いを歌っていると解釈されています。

歌詞を見てみましょう。

初めて出会った日のこと 覚えてますか

美しいピアノの導入で始まり、まるで橘咲が南方先生に優しく対話を始めるかのようなメロディが流れます。

次に、どのような感情が歌われるのでしょうか。

ドラマの結末を予感させるような切ない歌詞

過ぎ行く日の思い出を 忘れずにいて
あなたが見つめた全てを 感じていたくて
空を見上げた 今はそこで 私を見守っているの? 教えて…

『逢いたくていま』が主題歌として用いられた2009年版の『JIN-仁-』は、多くの未解決の謎を抱えたまま最終回を迎え、続編となる『完結編』が2011年に放送されました。

『完結編』の結末では、南方先生が未来へと帰還した後、江戸時代の人々から彼の記憶が次第に薄れていきます。

咲さんも、自身の中で南方先生の記憶が薄れつつあることに気づき、記憶が完全に消える前に先生に宛てた手紙を書きました。

このフレーズは、その時の咲さんの心情を表現したものとして感じられます。

MISIAは、この楽曲の依頼を受けた際には既に原作を読んでおり、物語の展開を把握していました。

ただし、2009年時点では原作の漫画はまだ連載中であり、その後の結末も原作とドラマでは異なりました。

それでもMISIAは、ドラマの結末を予感させるような切ない歌詞を書き上げました。

彼女の豊かな感性には驚かされますね。

当時の人々の内なる声が伝わってくるよう

MISIAは『JIN-仁-』の原作を既に読んでいましたが、作詞の際には物語に固執しませんでした。

プロデューサーからは、「ストーリーに縛られず、MISIAの純粋な感性を表現してほしい」とのオファーがあったそうです。

彼女は曲を作る際に、「逢いたい」というテーマを持ち、ドラマが歴史や医療の要素を含んでいることから、「いのちのメッセージ」について考えました。

そのため、彼女はある場所を訪れることにしました。

それは、鹿児島県にある「知覧特攻平和会館」で、第二次世界大戦末期の特攻隊員に関する遺品や資料が展示されています。

特攻とは、爆弾を搭載した飛行機と共に敵艦に体当たりする攻撃であり、その出撃は死を意味していました。

特攻隊員たちが出撃前に愛する人へ送った手紙を読んだMISIAは、「これ以上、切実に会いたいという思いが込められた手紙はない」と感じ、「曲の核心が決まった」と語っています。

もう二度と逢えないことを 知っていたなら
繋いだ手を いつまでも 離さずにいた
『ここにいて』と そう素直に 泣いていたなら
今も あなたは 変わらぬまま 私の隣りで 笑っているかな

戦時中の日本では、本音を口にすることが難しい時代でした。

若者たちや、戦地に送り出された夫や息子を持つ女性たちは、どれほど辛くて恐ろしい思いをしたことでしょう。

この一節からは、当時の人々の内なる声が伝わってくるような気がします。

「会いたい」よりも「逢いたい」

今 逢いたい あなたに
聞いて欲しいこと いっぱいある
ねえ 逢いたい 逢いたい

MISIAが「今」という言葉を選んだ理由は、彼女が歴史を単なる過去の出来事としてではなく、現在のものとして捉えていたからではないでしょうか。

第二次世界大戦を知らない世代にとっては、それは教科書の中の過去の出来事ですが、戦時中に生きた人々にとってはその時代が「今」でした。

MISIAは特攻隊員たちの手紙から、当時の人々が全力で生きた「今」を感じ取ったのかもしれません。

また、「逢う」という言葉には、単に人と出会うという意味だけでなく、「強く願っている人と出会う」という深い意味が込められています。

「会いたい」という思いよりも「逢いたい」と綴ることで、大切な人への思いがより強く伝わるのです。

自らの努力では変えられなかった運命

涙があふれて 時は いたずらに過ぎた
ねえ 逢いたい 抱きしめてよ
あなたを 想っている ずっと

戦争が終結し時が経っても、残された人々の心の中には、永遠に戻ることのない愛する人の若々しい姿が生き続け、消えることはないでしょう。

運命が変えられなくても 伝えたいことがある
『戻りたい…』あの日 あの時に 叶うのなら 何もいらない

歴史には「もし」は存在しないことはわかっていますが、後に残された人々は、時折あの時に戻りたいと思うこともあるでしょう。

どうしようもなくて 全て夢と願った
この心は まだ泣いてる
あなたを 想っている ずっと

このフレーズには、自らの努力では変えられなかった運命を想い、戦時中を生きた人々の悲しみが表現されているような気がします。

積み重ねが未来へと続いていく

『JIN-仁-』の舞台となった江戸時代が終わり、明治時代が始まったのは、今から150年以上前のことです。

また、日本の終戦は75年以上も前の出来事です。

現代は人生100年時代と言われ、その間に日本は大きく発展し、豊かになりました。

私たちの現在の生活は、過去の人々が果たした努力と犠牲の上に成り立っています。

今日の日々は、明日になれば過去となることでしょう。

この積み重ねが未来へと続いていくのであれば、私たちも「与えられた人生を精一杯生きなければならない」と、この曲が伝えようとしているのかもしれません。