たとえば、季節が変わると、人々はそれに合った音楽を楽しむ傾向があります。
夏が訪れると、夏の楽曲が再び人気を集め、クリスマスが近づくと、クリスマスソングが多くの場所で耳にされます。
同じように、特定の日にちやイベントが近づくと、その関連楽曲が思い出され、再び聴かれることがあります。
年度の終わりである3月は、しばしば「別れの季節」として捉えられます。
この季節には学生の卒業があり、またビジネスパーソンの中には新しい環境に向けてのステップを踏む人も多いです。
こうした背景から、特に3月という月を冠した「3月9日」という曲は、学校や卒業式などで頻繁に歌われる「卒業ソング」として親しまれています。
興味深いことに、この曲は2005年のドラマ『1リットルの涙』(フジテレビ系)でも合唱シーンで使われ、その後も多くの人に愛される存在となりました。
このドラマへの起用が、この楽曲が広まる一助となったことは間違いありません。
それにもかかわらず、この曲は単なる一時のブームに終わることなく、その魅力が続いているのです。
最近公表された調査によれば、Z世代(10歳から24歳までの男女)が選んだ「卒業ソングTOP10」(Simeji調べ)において、あいみょんの「桜が降る夜は」、YOASOBIの「ハルカ」、yamaの「春を告げる」といった新しい世代のアーティストたちの楽曲を凌ぎ、「3月9日」が1位に輝きました。
興味深いことに、この曲はリリース当時にZ世代の多くが聴いていたわけではないと思われます。
それにもかかわらず、「3月9日」はランキングにおいて上位に位置し、アンジェラ・アキの「手紙 〜拝啓 十五の君へ〜」やいきものがかりの「YELL」と並んで、今ではJ-POPのスタンダードナンバーとして歌い継がれています。
では、なぜ「3月9日」は多くの年月を経て、卒業ソングの定番として認識されるようになったのでしょうか。
有名な話ですが、「3月9日」は実際には「卒業」をテーマとした曲ではなく、レミオロメンのメンバーたちが友人の結婚を祝うために制作されました。
この友人が偶然にも3月9日に結婚式を挙げることとなり、それに因んで曲のタイトルも「3月9日」と名付けられたのです。
実際、この曲のミュージックビデオには、堀北真希が出演し、結婚式のシーンが含まれています。
歌詞を再び読み返してみると、確かに曲の中で直接的に「卒業」という言葉が使われていないことに気付くでしょう。
特に、サビの直前に現れる部分
この先も 隣で そっと微笑んで
は、この曲が元々「結婚ソング」として生まれたことを示唆しています。
作詞作曲家の藤巻亮太は、具体的な描写を避けつつも、普遍的な「新しい始まりの季節」を表現していることに気づくでしょう。
その中でもっとも象徴的なフレーズは、2番のBメロに登場する
新たな世界の入口に立ち 気づいたことは 1人じゃないってこと
の言葉です。
通常、「卒業」というと「別れ」と結びつけられがちですが、この曲を「新しい始まり」として前向きに解釈すると、「3月9日」が「卒業ソング」として持つ意味が明らかになります。
サビのこの一節
瞳を閉じれば あなたが
まぶたのうらに いることで
どれほど強くなれたでしょう
あなたにとって私も そうでありたい
を振り返ると、「あなた」という普遍的な言葉は、将来の「(結婚の)パートナー」としても、また卒業後に別々の道を歩む「友人」としても捉えることができることに気付きます。
したがって、「3月9日」はさまざまな解釈を受け入れる余地を持っており、本来の「結婚ソング」の枠を超えて、「卒業ソング」としても愛される文脈を築いているのだと考えられます。
このように、音楽の世界では作曲者の本来の意図を超えて、楽曲が新たな意味を持つことは珍しいことではありません。
先ほど「パートナー」と「友人」の例を挙げましたが、実際には聴く人の数だけ「あなた」の捉え方が存在し、楽曲のメッセージをどのように受け取るか、また楽曲がその人の人生にどのような意味を持つかは、個人や状況によって異なります。
この多様性こそが、音楽の魅力であり、ポップミュージックの深みでもあるのかもしれません。
「3月9日」という曲は、今やJ-POPのクラシックとして、多くのアーティストによってカバーされています。
例えば、2022年にはLittle Glee Monsterがこの曲をカバーし、大きな話題となりました。
こうした動きを見ると、この曲の存在感が年々増しているように感じます。
藤巻が描く風景は非常に普遍的であり、そのため、「3月9日」はこれからも様々な時代を超えて、「新たな始まりの季節」を彩り続けることでしょう。