「心のテーマソング」と言わしめる名曲。
多くのロック・ファンからそんな支持を集める一曲として、「THE HIGH LOWS(ザ・ハイロウズ)」の「十四才」があります。
2001年にリリースされた「ザ・ハイロウズ」名義での6作目『HOTEL TIKI-POTO』に収録されたこの楽曲は、ザ・ブルーハーツ時代から徹底して甲本ヒロトが歌い続けてきた「自身のロックンロール原体験」や「初期衝動」を、最も明確に歌詞に落とし込んだ楽曲だからと言えるかもしれません。
まずタイトルの「十四才」。
このタイトルが”自身のロックンロール原体験”のメタファーと受け取ることができます。
この楽曲に限らず、この14歳という年齢は、多くの小説、映画、楽曲などで青春や少年時代の象徴的に掲げられてきました。
(有名な所だとエヴァンゲリオンのパイロットも14歳縛りですし、ネットスラングの厨二病も年齢としては14歳に相当しますね。)
言い換えれば、これは多感な思春期そのものを年齢に置き換えた言い回し。
甲本ヒロトもこの多感な思春期に、ラジオで流れてきたManfred Mann(マンフレッド・マン)の「Doh Wah Diddy Diddy」やSex Pistols(セックス・ピストルズ)に出会った衝撃を度々語っています。
ジョナサン 音速の壁に ジョナサン きりもみする
イントロのロックンロール然としたギターリフに続き、こう歌いだされる「十四才」。
このAメロの歌詞は思春期特有の葛藤や不安、自棄を表し、歌詞の世界観の前提として意味づける事が出来ます。
ちなみにこの”ジョナサン”はのちにリチャード・バックの「かもめのジョナサン」であり、ジョナサン・リッチマンでもあると語っていますが、これはヒロト自身の14歳を想起させる”ジョナサン”であれば何でも構わないのだと解釈しています。
歌詞はこう続きます。
一発目の弾丸は 眼球に命中 頭蓋骨を飛び越えて僕の胸に
二発目は鼓膜をつきやぶり やはり僕の胸に
「体に電撃が走った」とは良く言ったりもしますが、これをヒロト流に言い回した詩的でショッキングな表現が耳に残ります。
リアル より リアリティ リアル より リアリティ
サビで繰り返されるこの一節は、意味として掴むことはできませんが、得た衝撃から生まれた感情、つまりヒロトの場合においてはロックンロールへの初期衝動を表していると考えられます。
リアルとリアリティ。
意味としては同義ですが、これを比較し繰り返す事で、まだ未熟な思春期の少年であることや強い衝動であることもニュアンスとして伝わってきます。
そしてなんと言ってもこの楽曲を”賛歌”足らしめているのは最後の歌詞。
あの日の僕のレコードプレーヤーは 少しだけ威張ってこう言ったんだ いつでもどんな時でもスイッチを入れろよ そんときゃ必ずお前 十四才にしてやるぜ
ここまでは比喩的表現で歌ってきた中、最後のこの歌詞だけは直球のメッセージを投げ掛ける事でコントラストとなり、大きなカタルシスが最後に生まれています。
多くのインタビューなどでヒロトが少年時代に大好きなレコードを繰り返し聴いていたというエピソードは語られていますし、レコードへの強い愛着を現在も尚、度々口にしています。
「ザ・ハイロウズ」でも、80年代までに見られた洋楽の帯付きレコードになぞらえ、彼らの作品もパロディ的なキャッチコピーを書き添えた帯付きレコードをリリースしていた程です。
現在のようにアプリなどオンライン上で無限にいつでも聴く事ができない時代。
1963年生まれのヒロトにとって、音楽を好きな時に聴く手段はレコードを買って針を落とす事だけでした。
そんなレコードから多くの刺激や影響を得て、今も針を落とす度にそれが思い起こされ続けている事。そして自身もミュージシャンとなり、レコードをリリースする側として、「十四才にしてやるぜ」、つまり、「聴き手を突き動かすような音楽を作り続けてやるぜ」という決意としても解釈することができます。
名曲が故に、「十四才」の歌詞について質問をされる事も多いようで、「説明し過ぎたかもしれない。」とヒロトが漏らした事があるそうです。
その更に後の昨年2020年、フジテレビで放送されたテレビ番組『まつもtoなかい~マッチングな夜~』にヒロトが出演した際の発言で、そう漏らした意味をとても良く理解する事が出来ました。
「今の若い世代について思うことはありますか?」と尋ねられ、「言う事なく全て素晴らしい。」と前置きした上で、「ひとつ感じるのは、歌詞を聴きすぎ」と答えていたのです。
ヒロトが原体験やその後に影響を受けた音楽の多くは海外の音楽でした。
つまり、ヒロト自身は歌詞の意味は分からずに前述したマンフレッドマンやセックスピストルズに衝撃を受けた訳です。
この番組内でも語られていましたが、彼のロックの原体験は「歌っている内容は分からないけれど、感動や興奮を得た」というもので、歌詞ばかりが注目される風潮や、ましてや作った本人がそれを説明するということは本意ではないという事がこの発言から察する事が出来ます。
この「十四才」の歌詞だけを見ても十分伝わるとおり、日本語詞のクリエイターとしても突出した才能を発揮する甲本ヒロトだけに、言葉そのものとしてのメッセージに注目したくなってはしまいます。
ただ、彼が表現したいのは”バンド音楽”であり、彼がそうであったように、もっとシンプルに何も考えずに聴く事が、彼の望む彼の音楽の楽しみ方なのかもしれません。